戲以延熙四年著季漢輔臣贊、其所頌述、今多載于蜀書、是以記之於左。自此之後卒者、則不追諡、故或有應見稱紀而不在乎篇者也。其戲之所贊而今不作傳者、余皆注疏本末於其辭下、可以觕知其髣髴云爾。
楊戯は延熙四年（241）に『季漢輔臣賛』を著し、その頌述したものは今書の蜀書に多く載り、これによって左に記すものである。（賛とは）これより後に卒した者には追諡しないものであり、そのため或る者は称えられ紀（しる）されるに相応しくとも篇にいない者もいる。楊戯が賛美していながら今書に伝を作らなかった者に、余が皆なその辞下（記事の下）に本末を注疏したのは、その髣髴（概観）の觕（あらまし）を知れるようにした為に他ならない。
昔文王歌徳、武王歌興、夫命世之主、樹身行道、非唯一時、亦由開基植緒、光于来世者也。自我中漢之末、王綱棄柄、雄豪並起、役殷難結、生人塗地。於是世主感而慮之、初自燕・代則仁声洽著、行自斉・魯則英風播流、寄業荊・郢則臣主帰心、顧援呉・越則賢愚頼風、奮威巴・蜀則万里粛震、厲師庸・漢則元寇斂迹、故能承高祖之始兆、復皇漢之宗祀也。然而姦凶懟険、天征未加、猶孟津之翔師、復須戦於鳴條也。天禄有終、奄忽不豫。雖摂帰一統、万国合従者、当時儁乂扶攜翼戴、明徳之所懐致也、蓋済済有可観焉。遂乃並述休風、動于後聴。
其辞曰：
皇帝遺植、爰滋八方、別自中山、霊精是鍾、順期挺生、傑起龍驤。始于燕・代、伯豫君荊、呉越憑頼、望風請盟、挟巴跨蜀、庸漢以并。乾坤復秩、宗祀惟寧、躡基履迹、播徳芳声。華夏思美、西伯其音、開慶来世、歴載攸興。
――賛昭烈皇帝
劉備
忠武英高、献策江浜、攀呉連蜀、権我世真。受遺阿衡、整武斉文、敷陳徳教、理物移風、賢愚競心、僉忘其身。誕静邦内、四裔以綏、屡臨敵庭、実耀其威、研精大国、恨於未夷。
――賛諸葛丞相
諸葛亮
司徒清風、是咨是臧、識愛人倫、孔音鏘鏘。
――賛許司徒
許靖
関・張赳赳、出身匡世、扶翼攜上、雄壮虎烈。藩屏左右、翻飛電発、済于艱難、賛主洪業、侔迹韓・耿、斉声双徳。交待無礼、並致姦慝、悼惟軽慮、隕身匡国。
――賛関雲長・張益徳
関羽・張飛
驃騎奮起、連横合従、首事三秦、保拠河・潼。宗計於朝、或異或同、敵以乗釁、家破軍亡。乖道反徳、託鳳挙龍。
――賛馬孟起
馬超
翼侯良謀、料世興衰、委質于主、是訓是諮、暫思経算、覩事知機。
――賛法孝直
法正
軍師美至、雅気曄曄、致命明主、忠情発臆、惟此義宗、亡身報徳。
――賛龐士元
龐統
将軍敦壮、摧峰登難、立功立事、于時之幹。
――賛黄漢升
黄忠
掌軍清節、亢然恒常、讜言惟司、民思其綱。
――賛董幼宰
董和
安遠彊志、允休允烈、軽財果壮、当難不惑、以少禦多、殊方保業。
――賛鄧孔山
鄧方
孔山名方、南郡人也。以荊州從事隨先主入蜀。蜀既定、為犍為屬國都尉、因易郡名、為朱提太守、選為安遠將軍・庲降都督、住南昌縣。章武二年卒。失其行事、故不為傳。
鄧孔山、名は方。南郡の人である。荊州従事として劉備に随って入蜀した。蜀が定まった後、犍為属国都尉となり、郡名を易えた事に因って朱提太守となった。選ばれて安遠将軍・庲降都督となり、南昌県に駐まった。章武二年（222）に卒した。その行跡・事績が失われた為に伝を立てなかった。
揚威才幹、欷歔文武、当官理任、欷歔辯挙、図殖財施、有義有叙。
――賛費賓伯
費観
賓伯名觀、江夏鄳人也。劉璋母、觀之族姑、璋又以女妻觀。觀建安十八年參李嚴軍、拒先主於緜竹、與嚴倶降、先主既定益州、拜為裨將軍、後為巴郡太守・江州都督、建興元年封都亭侯、加振威將軍。觀為人善於交接。都護李嚴性自矜高、護軍輔匡等年位與嚴相次、而嚴不與親褻；觀年少嚴二十餘歳、而與嚴通狎如時輩云。年三十七卒。失其行事、故不為傳。
費賓伯、名は観。江夏鄳県の人である。劉璋の母が費観の族姑であり、劉璋は又た娘を費観に妻わせた。費観は建安十八年に李厳の参軍となり、緜竹で劉備を拒いで李厳と倶に降り、劉備は益州を定めた後に拝して裨将軍とした。後に巴郡太守・江州都督となり、建興元年（223）に都亭侯に封じられ、振威将軍を加えられた。費観の為人りは人との交接に善く、都護李厳の性が自ら矜ること高く、護軍
輔匡らは年位とも李厳に次いだが、李厳は褻りに親しまなかったものを、費観は李厳より二十余歳年少でありながら、李厳とは同年輩のように通狎した。齢三十七で卒した。その行跡・事績が失われた為に伝を立てなかった。
どちらでも触れられていませんが、費禕と同族です。
屯騎主旧、固節不移、既就初命、尽心世規、軍資所恃、是辨是裨。
――賛王文儀
王連
尚書清尚、勅行整身、抗志存義、味覧典文、倚其高風、好侔古人。
――賛劉子初
劉巴
安漢雍容、或婚或賓、見礼当時、是謂循臣。
――賛麋子仲
麋竺
少府修慎、鴻臚明真、諫議隠行、儒林天文。宣班大化、或首或林。
――賛王元泰・何彦英・杜輔国・周仲直
王謀・何宗・杜微・周羣
王元泰名謀、漢嘉人也。有容止操行。劉璋時、為巴郡太守、還為州治中從事。
先主定益州、領牧、以為別駕。先主為漢中王、用荊楚宿士零陵賴恭為太常、南陽黄柱為光祿勳、謀為少府；建興初、賜爵關内侯、後代賴恭為太常。恭・柱・謀皆失其行事、故不為傳。恭子厷、為丞相西曹令史、隨諸葛亮於漢中、早夭、亮甚惜之、與留府長史參軍張裔・蔣琬書曰：「令史失賴厷、掾屬喪楊顒、為朝中損益多矣。」
顒亦荊州人也。後大將軍蔣琬問張休曰：「漢嘉前輩有王元泰、今誰繼者？」休對曰：「至於元泰、州里無繼、況鄙郡乎！」其見重如此。
何彦英名宗、蜀郡郫人也。事廣漢任安學、精究安術、與杜瓊同師而名問過之。劉璋時、為犍為太守。先主定益州、領牧、辟為從事祭酒。後援引圖・讖、勸先主即尊號。踐阼之後、遷為大鴻臚。建興中卒。失其行事、故不為傳。子雙、字漢偶。滑稽談笑、有淳于髠・東方朔之風。為雙柏長。早卒。
王元泰、名は謀。漢嘉郡の人である。容止
（挙措）や操行
（素行）に見るべきがあった。劉璋の時に巴郡太守となり、還って州の治中従事となった。劉備は益州を定めて州牧を兼領すると、別駕とした。劉備は漢中王となると、荊楚の宿士
（名族）として零陵の
頼恭を用いて太常とし、南陽の
黄柱を光禄勲とし、王謀を少府とした。建興の初めに爵関内侯を賜り、後に頼恭に代って太常となった。頼恭・黄柱・王謀は皆なその行跡・事績が失われた為に伝を立てなかった。
頼恭の子の頼厷は丞相西曹令史となり、漢中で諸葛亮に随ったが早夭した。諸葛亮は甚だ惜しみ、留府長史・参軍の張裔・蔣琬に書簡を与え 「令史の頼厷を失い、掾属の楊顒を喪った。朝廷の損失は益々多くなった」楊顒も亦た荊州の人である
[1]。
後に大将軍蔣琬が張休に問うには 「漢嘉の前輩に王元泰がいたが、今は誰がこれに継ぐ？」 張休 「王元泰に至っては州でも継ぐ者はおりません。ましてや鄙郡では！」 その重んじられる事はこの通りであった。
何彦英、名は宗。蜀郡郫県の人である。広漢の
任安に師事して学び、任安の術を精究し、
杜瓊とは師を同じくしたが、名声では凌いだ。劉璋の時に犍為太守となった。劉備が益州を定めて州牧を兼領すると、辟して従事祭酒とし、後に図讖を援引して劉備に尊号に即く事を勧進した。踐阼の後、遷って大鴻臚となり、建興中に卒した。その行跡・事績が失われた為に伝を立てなかった。
子の何双は字を漢偶といった。滑稽な談笑は淳于髠・東方朔の風があった。（建寧郡の）雙柏県長となり、早くに卒した。
車騎高勁、惟其泛愛、以弱制彊、不陥危墜。
――賛呉子遠
呉懿
子遠名壹、陳留人也。隨劉焉入蜀。劉璋時、為中郎將、將兵拒先主於涪、詣降。先主定益州、以壹為護軍討逆將軍、納壹妹為夫人。章武元年、為關中都督。建興八年、與魏延入南安界、破魏將費瑤、徙亭侯、進封高陽郷侯、遷左將軍。十二年、丞相亮卒、以壹督漢中、車騎將軍、假節、領雍州刺史、進封濟陽侯。十五年卒。失其行事、故不為傳。壹族弟班、字元雄、大將軍何進官屬呉匡之子也。以豪侠稱、官位常與壹相亞。先主時、為領軍。後主世、稍遷至驃騎將軍、假節、封緜竹侯。
呉子遠、名は懿。陳留の人である。
『華陽國志』では呉懿とある事から、陳寿が司馬懿を憚ったと云われています。『華陽國志』は憚らなくていいのか…。
劉焉に随って入蜀し、劉璋の時に中郎将となり、兵を率いて涪で劉備を拒いだが、詣降した。劉備は益州を定めると呉懿を護軍・討逆将軍とし、呉懿の
妹を納れて夫人とした。章武元年（221）、関中都督
（陽安関都督）となった。建興八年（230）、魏延と南安郡に入り、魏将の費耀を破って亭侯に徙封された。（後に）高陽郷侯に進封され、左将軍に遷った。十二年（234）、丞相諸葛亮が卒すると呉懿を督漢中・車騎将軍・仮節・領雍州刺史とし、済陽侯に進封した。十五年（237）に卒した。その行跡・事績が失われた為に伝を立てなかった。
呉懿の族弟の
呉班は字を元雄といい、大将軍何進の官属だった呉匡の子である。豪侠を称され、官位は常に呉懿に亜いだ。先主の時に領軍となり、後主の世にようよう遷って驃騎将軍・仮節に至り、緜竹侯に封じられた。
安漢宰南、奮撃旧郷、翦除蕪穢、惟刑以張、広遷蛮・濮、国用用彊。
――賛李徳昂
李恢
輔漢惟聡、既機且恵、因言遠思、切問近対、賛時休美、和我業世。
――賛張君嗣
張裔
鎮北敏思、籌画有方、導師禳穢、遂事成章。偏任東隅、末命不祥、哀悲本志、放流殊疆。
――賛黄公衡
黄権
越騎惟忠、厲志自祗、職于内外、念公忘私。
――賛楊季休
楊洪
征南厚重、征西忠克、統時選士、猛将之烈。
――賛趙子龍・陳叔至
趙雲・陳到
叔至名到、汝南人也。自豫州隨先主、名位常亞趙雲、倶以忠勇稱。建興初、官至永安都督・征西將軍、封亭侯。
陳叔至、名は到。汝南の人である。豫州より劉備に随い、名位は常に趙雲に亜ぎ、倶に忠勇を称えられた。建興の初に官は永安都督・征西将軍に至り、亭侯に封じられた。
鎮南粗強、監軍尚篤、並豫戎任、任自封裔。
――賛輔元弼・劉南和
輔匡・劉邕
輔元弼名匡、襄陽人也。隨先主入蜀。益州既定、為巴郡太守。建興中、徙鎮南、為右將軍、封中郷侯。
劉南和名邕、義陽人也。隨先主入蜀。益州既定、為江陽太守。建興中、稍遷至監軍後將軍、賜爵關内侯、卒。子式嗣。少子武、有文、與樊建齊名、官亦至尚書。
輔元弼、名は匡。襄陽の人である。劉備に随って入蜀し、益州が定まった後に巴郡太守とされた。建興中に鎮南将軍に徙され、（ついで）右将軍となり、中郷侯に封じられた。
劉南和、名は邕。義陽の人である。劉備に随って入蜀し、益州が定まった後に江陽太守とされた。建興中にようよう遷って監軍・後将軍に至り、爵関内侯を賜り、卒した。子の劉式が嗣いだ。少子の劉武は文名があり、樊建と名を斉しくし、官も亦た尚書に至った。
司農性才、敷述允章、藻麗辞理、斐斐有光。
――賛秦子勑
秦宓
正方受遺、豫聞後綱、不陳不僉、造此異端、斥逐当時、任業以喪。
――賛李正方
李厳
文長剛粗、臨難受命、折衝外禦、鎮保国境。不協不和、忘節言乱、疾終惜始、実惟厥性
――賛魏文長
（魏延
威公狷狹、取異衆人；閑則及理、逼則傷侵、舍順入凶、大易之云。
――賛楊威公
楊儀
季常良實、文経勤類、士元言規、処仁聞計、孔休・文祥、或才或臧、播播述志、楚之蘭芳。
――賛馬季常・衛文経・韓士元・張処仁・殷孔林・習文祥
馬良・衛文経・韓士元・張存・殷観・習禎
文經・士元、皆失其名實・行事・郡縣。
處仁本名存、南陽人也。以荊州從事隨先主入蜀、南次至雒、以為廣漢太守。存素不服龐統、統中矢卒、先主發言嘉歎、存曰：「統雖盡忠可惜、然違大雅之義。」先主怒曰：「統殺身成仁、更為非也？」免存官。頃之、病卒。失其行事、故不為傳。
孔休名觀、為荊州主簿別駕從事、見先主傳。失其郡縣。
文祥名禎、襄陽人也。隨先主入蜀、歴雒・郫令、（南）廣漢太守。失其行事。子忠、官至尚書郎。
衛文経・韓士元は皆なその名と実際、業績と事績、郡県が失われている。
張処仁、本名は存。南陽の人である。荊州従事として劉備に随って入蜀し、南のかた雒に至って次（やど）り、広漢太守となった。張存は素より龐統に心服せず、龐統が矢に中って卒し、劉備が嘉した言葉を発して歎じると、張存は 「龐統が忠を尽したのは惜しんで構いませんが、大雅の義には違えておりました」 劉備は怒り、「龐統が身を殺して仁を成したのに、そうではないとするか？」 張存を罷免した。しばらくして病卒した。その行跡・事績が失われた為に伝を立てなかった。
殷孔休、名は観。荊州の主簿・別駕従事となった。先主伝に見られる。出身郡県の事は失われた。
劉備が孫権と通婚した後、孫権から益州攻略の先鋒となる事を打診された時に断る事を勧めた人物で、その当時は荊州主簿でした。以後の消息は不明です。
習文祥、名は禎。襄陽の人である。劉備の入蜀に随い、雒令・郫令・広漢太守を歴任した。その行跡・事績が失われた。子の習忠の官は尚書郎に至った
[2]。
国山休風、永南耽思；盛衡・承伯、言藏言時；孫徳果鋭、偉南篤常；徳緒・義彊、志壮気剛。済済修志、蜀之芬香。
――賛王国山・李永南・馬盛衡・馬承伯・李孫徳・李偉南、龔徳緒・王義彊
王甫・李邵・馬勲・馬斉・李福・李朝・龔禄・王士
國山名甫、廣漢郪人也。好人流言議。劉璋時、為州書佐。先主定蜀後、為緜竹令、還為荊州議曹從事。隨先主征呉、軍敗於秭歸、遇害。子祐、有父風、官至尚書右選郎。
永南名邵、廣漢郪人也。先主定蜀後、為州書佐部從事。建興元年、丞相亮辟為西曹掾。亮南征、留邵為治中從事、是歳卒。
盛衡名勳、承伯名齊、皆巴西閬中人也。勳、劉璋時為州書佐、先主定蜀、辟為左將軍屬、後轉州別駕從事、卒。
齊為太守張飛功曹。飛貢之先主、為尚書郎。建興中、從事丞相掾、遷廣漢太守、復為參軍。亮卒、為尚書。勳・齊皆以才幹自顯見；歸信於州黨、不如姚伷。
伷字子緒、亦閬中人。先主定益州後、為功曹書佐。建興元年、為廣漢太守。丞相亮北駐漢中、辟為掾。並進文武之士、亮稱曰：「忠益者莫大於進人、進人者各務其所尚；今姚掾並存剛柔、以廣文武之用、可謂博雅矣、願諸掾各希此事、以屬其望。」遷為參軍。亮卒、稍遷為尚書僕射。時人服其真誠篤粹。延熙五年卒、在作贊之後。
孫德名福、梓潼涪人也。先主定益州後、為書佐・西充國長・成都令。建興元年、徙巴西太守、為江州督・楊威將軍、入為尚書僕射、封平陽亭侯。延熙初、大將軍蔣琬出征漢中、福以前監軍領司馬、卒。
偉南名朝、永南兄。郡功曹、舉孝廉、臨邛令、入為別駕從事。隨先主東征呉、章武二年卒於永安。
德緒名祿、巴西安漢人也。先主定益州、為郡從事牙門將。建興三年、為越雟太守、隨丞相亮南征、為蠻夷所害、時年三十一。弟衡、景耀中為領軍。
義彊名士、廣漢郪人、國山從兄也。從先主入蜀後、舉孝廉、為符節長、遷牙門將、出為宕渠太守、徙在犍為。會丞相亮南征、轉為益州太守、將南行、為蠻夷所害。
王国山、名は甫。広漢郪県の人である。人の流言
（評判）を議する事を好んだ。劉璋の時に州書佐となった。劉備が益州を定めた後に緜竹令となり、遷って荊州議曹従事となった。先主の征呉に随い、秭帰で軍が敗れた時に害に遇った。子の王祐には父の風があり、官は尚書右選郎に至った。
李永南、名は邵。広漢郪県の人である。劉備が蜀を平定した後、州書佐・部従事となった。建興元年（223）に丞相諸葛亮が辟して西曹掾とした。諸葛亮は南征に際し、李邵を留めて治中従事としたが、この歳に卒した
[3]。
馬盛衡、名は勲、馬承伯、名は斉。皆な巴西閬中の人である。馬勲は劉璋の時に州書佐となり、劉備が蜀を平定すると辟されて左将軍属となった。後に州別駕従事に転じ、卒した。
馬斉は巴西太守張飛の功曹となり、張飛が劉備に貢挙し、尚書郎となった。建興中に丞相掾として従事し、広漢太守に遷り、復た丞相参軍となった。諸葛亮が卒すると尚書となった。馬勲・馬斉は皆な才幹によって顕現したが、州の郷党が信を帰した点では姚伷に及ばなかった。
姚伷、字は子緒も亦た閬中の人である。劉備が益州を平定した後に功曹書佐となり、建興元年（223）に広漢太守となった。丞相諸葛亮は北のかた漢中に駐まると、辟して掾とした。文武の士をどちらも進挙し、諸葛亮が称えるには 「忠に益すること人を進挙するより大きいものは莫い。人を進挙する者は各々尚
（たっと）ぶ所に務めるが、今、姚掾は剛柔を揃って気配り、文武の用途を広げている。博く雅
（ただし）いと謂って良かろう。願わくば諸掾よ、各々がこの事を希
（ねが）う事に望みを属
（よ）せている」 遷って参軍となり、諸葛亮が卒した後にようよう遷って尚書僕射となった。時人はその真誠と篤粋に敬服した。延熙五年（242）に卒したが、賛の作られた後だった
[※]。
※ 人物伝はその人の死後に作られるものなので、姚伷がこの『季漢輔臣賛』に載せられていない理由を説明したものです。
李孫徳、名は福。梓潼涪県の人である。劉備が益州を平定した後、書佐・西充国県長・成都令となった。建興元年（223）、巴西太守に徙され、江州督・楊威将軍となり、入内して尚書僕射となり、平陽亭侯に封じられた。延熙の初（238）、大将軍蔣琬は漢中に出征すると、李福を前監軍・領司馬としたが、卒した
[4]。
李偉南、名は朝。
李永南の兄である。郡功曹となり、孝廉に挙げられて臨邛令となり、入って別駕従事となった。先主の呉への東征に随い、章武二年（222）に永安で卒した
[5]。
龔徳緒、名は禄。巴西安漢の人である。劉備が益州を平定すると、巴西郡従事・牙門将とされた。建興三年（225）に越雟太守となり、丞相諸葛亮の南征に随い、蛮夷に害された。時に齢三十一だった。弟の龔衡は景耀中に領軍となった。
王義彊、名は士。広漢郪県の人で、王国山の従兄である。劉備の入蜀に従った後、孝廉に挙げられて符節県長となり、牙門将に遷り、転出して宕渠太守となり、犍為太守に徙された。おりしも丞相諸葛亮の南征があり、転じて益州太守となり、南行しようとした時に蛮夷に害された。
休元軽寇、損時致害、文進奮身、同此顛沛、患生一人、至於弘大。
――賛馮休元・張文進
馮習・張南
休元名習、南郡人。隨先主入蜀。先主東征呉、習為領軍、統諸軍、大敗於猇亭。
文進名南、亦自荊州隨先主入蜀、領兵從先主征呉、與習倶死。
時又有義陽傅肜、先主退軍、斷後拒戰、兵人死盡、呉將語肜令降、肜罵曰：「&#x;狗！何有漢將軍降者！」遂戰死。拜子僉為左中郎、後為關中都督、景耀六年、又臨危授命。論者嘉其父子奕世忠義。
馮休元、名は習。南郡の人である。劉備の入蜀に随った。先主が呉に東征した時、馮習を領軍として諸軍を統べさせ、猇亭で大敗した。
張文進、名は南も亦た荊州より劉備に随って入蜀し、兵を領して先主の征呉に従い、馮習と倶に死んだ。
時に又た義陽の
傅肜という者があった。先主が軍を後退させた時、後続を断って拒戦した。兵人が尽く死ぬと、呉将は傅肜に降るよう語りかけたが、傅肜は罵って 「呉狗めが！ 漢の将軍で降る者があろうか！」 かくて戦って死んだ。子の
傅僉は拝されて左中郎将となり、後に関中都督
（陽安関都督）となり、景耀六年（263）に又た危難に臨んで
命を授けた。論者はその父子の奕世
（累世）の忠義を嘉した
[6]。
江陽剛烈、立節明君、兵合遇寇、不屈其身、単夫隻役、隕命於軍。
――賛程季然
程畿
季然名畿、巴西閬中人也。劉璋時為漢昌長。縣有賨人、種類剛猛、昔高祖以定關中。巴西太守龐羲以天下擾亂、郡宜有武衞、頗招合部曲。有讒於璋、龐羲欲叛者、璋陰疑之。羲聞、甚懼、將謀自守、遣畿子郁宣旨、索兵自助。畿報曰：「郡合部曲、本不為叛、雖有交搆、要在盡誠；若必以懼、遂懷異志、非畿之所聞。」并敕郁曰：「我受州恩、當為州牧盡節。汝為郡吏、當為太守效力、不得以吾故有異志也。」羲使人告畿曰：「爾子在郡、不從太守、家將及禍！」畿曰：「昔樂羊為將、飲子之羹、非父子無恩、大義然也。今雖復羹子、吾必飲之。」羲知畿必不為己、厚陳謝於璋以致無咎。璋聞之、遷畿江陽太守。先主領益州牧、辟為從事祭酒。後隨先主征呉、遇大軍敗績、泝江而還、或告之曰：「後追已至、解船輕去、乃可以免。」畿曰：「吾在軍、未曾為敵走、況從天子而見危哉！」追人遂及畿船、畿身執戟戰、敵船有覆者。衆大至、共撃之、乃死。
程季然、名は畿。巴西閬中の人である。劉璋の時に漢昌県長となった。県には賨人がおり、種は剛猛の類いで、昔、高祖が用いて関中を定めた。巴西太守
龐羲は天下の擾乱に対し、郡も武衛するのが妥当だとし、頗る部曲を招合した。劉璋に讒する者があり、龐羲が叛こうとしていると。劉璋も陰かに猜疑した。龐羲は聞くと甚だ懼れ、自衛する事を謀ろうとし、程畿の子の程郁を遣って旨を宣べ、兵を索
（あつ）めて助けさせようとした。程畿が報答するには 「郡が部曲を招合したのは、もとより叛く為ではありません。枉陥を搆じられたとはいえ、重要なのは誠を尽くす事です。もし懼れて異志を懐いたのなら、畿の承知するものではありません」 併せて程郁に命じるには 「私は州に恩を受け、州牧に節を尽くすのが当然だ。汝は郡吏であり、太守に力を効
（つく）すのが当然だ。私の存在によって異志を持ってはならぬ」 龐羲が人を遣って程畿に告げさせるには 「爾の子は郡にある。太守に従わねば家にも禍が及ぼう！」 程畿 「昔、
楽羊は将となり、（敵が殺した）我が子の羹を飲みました。父子の恩が無かったのではなく、大義がそうさせたのです。今、復た子が羹とされれようとも、私はきっと飲みましょう」 龐羲は程畿が己れの為には決して動かない事を知り、劉璋に厚く陳謝した為に咎められなかった。劉璋はこれを聞き、程畿を江陽太守に遷した。
劉備は益州牧を兼領すると辟して従事祭酒とした。後に先主の征呉に随い、大軍の敗績に遇い、泝江して還った時、或る者が告げるには 「後追が至ろうとしています。伴船を解いて軽くして去れば免れ得ましょう」 程畿 「私は軍にあって未だ曾て敵から走
（に）げた事は無い。ましてや天子に従って危うい事態などに！」 追人がかくて程畿の船に及ぶと、程畿は身ずから戟を執って戦い、敵船には覆るものもあった。軍兵が大いに至り、共にこれを撃ってかくして死んだ。
公弘後生、卓爾奇精、夭命二十、悼恨未呈。
――賛程公弘
程祁
公弘、名祁、季然之子也。
程公弘、名は祁。程季然の子である。
古之奔臣、礼有来偪、怨興司官、不顧大大。靡有匡救、倍成奔北、自絶于人、作笑二国。
――賛糜芳・士仁・郝普・潘濬
糜芳字子方、東海人也、為南郡太守。士仁字君義、廣陽人也、為將軍、住公安、統屬關羽；與羽有隙、叛迎孫權。
郝普字子太、義陽人。先主自荊州入蜀、以普為零陵太守。為呉將呂蒙所譎、開城詣蒙。
潘濬字承明、武陵人也。先主入蜀、以為荊州治中、典留州事、亦與關羽不穆。孫權襲羽、遂入呉。普至廷尉、濬至太常、封侯。
糜芳、字は子方。東海郡の人である、南郡太守となった。
士仁、字は君義。広陽郡の人である。将軍となり、公安に駐まった。
（揃って）関羽に統属されたが、関羽とは隙があり、叛いて孫権を迎えた。
南郡は荊州の治所の置かれた場所で、公安はその対岸。というか、劉備が荊州で執務していた時の駐在所。麋芳・士仁とも荊州屈指の要衝を任されています。
郝普、字は子太。義陽の人である。劉備は荊州より入蜀すると、郝普を零陵太守とした。呉将の呂蒙に
譎（いつわ）られ、開城して呂蒙に詣った。
潘濬、字は承明。武陵の人である。先主は入蜀すると荊州治中とし、留めて州の事を典ったが、亦た関羽とは和穆しなかった。孫権が関羽を襲うと、かくて入呉した。
郝普は廷尉に至り、
潘濬は太常に至って封侯された
[7]。