劉馥字元穎、沛國相人也。避亂揚州、建安初、説袁術將戚寄・秦翊、使率衆與倶詣太祖。太祖悅之、司徒辟為掾。後孫策所置廬江太守李述攻殺揚州刺史嚴象、廬江梅乾・雷緒・陳蘭等聚衆數萬在江・淮間、郡縣殘破。太祖方有袁紹之難、謂馥可任以東南之事、遂表為揚州刺史。
馥既受命、單馬造合肥空城、建立州治、南懷緒等、皆安集之、貢獻相繼。數年中恩化大行、百姓樂其政、流民越江山而歸者以萬數。於是聚諸生、立學校、廣屯田、興治芍陂及〔茄〕陂・七門・呉塘諸堨以漑稻田、官民有畜。又高為城壘、多積木石、編作草苫數千萬枚、益貯魚膏數千斛、為戰守備。
後に曹魏は揚州の治所を寿春に定め、劉馥が防備を強化した合肥城は、満寵が合肥新城を新造するまで東南最大の前線基地であり続けます。もともと寿春の方が広域の中心都市としての歴史が古く、ただこの当時は、まだ袁術の時代の損傷から復帰しておらず、動揺がつづいている廬江地方を鎮める上でも南方の合肥の方が治所として適していると判断されたのでしょう。因みに漢朝の伝統的な揚州治だった歴陽(馬鞍山市和県)に郡治は置かれず、孫呉が建業を国都とした事から県城に過ぎなくなります。
建安十三年卒。孫權率十萬衆攻圍合肥城百餘日、時天連雨、城欲崩、於是以苫蓑覆之、夜然脂照城外、視賊所作而為備、賊以破走。揚州士民益追思之、以為雖董安于之守晉陽、不能過也。及陂塘之利、至今為用。
上記の梅乾らは赤壁の役をきっかけとして曹操に再び叛き、209年頃に張遼らによって討平されます。この赤壁の役は周瑜・魯粛が強引に開戦したと解釈できるものですが、劉馥が生きていても周瑜が強気の決断を下せたかは微妙なところで、そう考えると劉馥の死は中国史に大きな影響を遺したと云えなくもありません。
揚州の士民は益々追思し、董安于が晋陽を守った事[※]でもこれには及ばないとした。陂塘の利益に及んでは、今に至るも用(はたら)きを為している。※ 董安于は春秋晋の趙鞅の臣。范・中行氏の乱では趙氏の本拠の晋陽を守り抜いて勲功の筆頭とされた。後に乱の発端を作った元凶として智氏から処刑を求められると、自ら進んで自殺した。
馥子靖、黄初中從黄門侍郎遷廬江太守、詔曰：「卿父昔為彼州、今卿復據此郡、可謂克負荷者也。」轉在河内、遷尚書、賜爵關内侯、出為河南尹。散騎常侍應璩書與靖曰：「入作納言、出臨京任。富民之術、日引月長。藩落高峻、絶穿窬之心。五種別出、遠水火之災。農器必具、無失時之闕。蠶麥有苫備之用、無雨濕之虞。封符指期、無流連之吏。鰥寡孤獨、蒙廩振之實。加之以明擿幽微、重之以秉憲不撓；有司供承王命、百里垂拱仰辦。雖昔趙・張・三王之治、未足以方也。」靖為政類如此。初雖如碎密、終於百姓便之、有馥遺風。母喪去官、後為大司農衞尉、進封廣陸亭侯、邑三百戸。上疏陳儒訓之本曰：「夫學者、治亂之軌儀、聖人之大教也。自黄初以來、崇立太學二十餘年、而寡有成者、蓋由博士選輕、諸生避役、高門子弟、恥非其倫、故無學者。雖有其名而無其人、雖設其教而無其功。宜高選博士、取行為人表、經任人師者、掌教國子。依遵古法、使二千石以上子孫、年從十五、皆入太學。明制黜陟榮辱之路；其經明行修者、則進之以崇德；荒教廢業者、則退之以懲惡；舉善而教不能則勸、浮華交游、不禁自息矣。闡弘大化、以綏未賓；六合承風、遠人來格。此聖人之教、致治之本也。」後遷鎮北將軍、假節都督河北諸軍事。靖以為「經常之大法、莫善於守防、使民夷有別」。遂開拓邊守、屯據險要。又修廣戻陵渠大堨、水漑灌薊南北；三更種稻、邊民利之。嘉平六年薨、追贈征北將軍、進封建成郷侯、諡曰景侯。子熙嗣。
※ 三王は王尊・王章・王駿を指す。この五名はいずれも漢の名京兆尹として名を遺した。
初めは砕密(煩瑣)だったが、終には百姓の便宜となったのは、劉馥の遺風があったからである。母の喪で官を去り、後に大司農、衛尉となり、広陸亭侯に進封されて三百戸を食邑とした。上疏して儒訓の本義を陳べるには「学とは乱を治める軌儀(規範)、聖人の大教であります。黄初より以来、太学を崇立して二十余年でありますが、大成した者は寡く、おそらく博士の選考が軽く、諸生は役務を忌避（する為に入学）する為で、高門の子弟は同列となる事を恥じ、ゆえに学ぶ者がいないのです。名はあっても人物は無く、教えを設けても成果はありません。博士の選考を高くし、行ないと為人りが表(手本)となる者を取り、経学において人の師たる者を任じて国子(士大夫の子弟)の教えを掌らせるのです。古法に依遵し、二千石以上の子孫のうち齢十五よりを皆な太学に入れさせるのです。黜陟栄辱の路を明らかに制定し、経書に明るく行ないを修めた者を進抜する事で徳を崇び、教えを荒(わす)れて学業を廃した者は退ける事で悪を懲らすのです。善を挙げれば教えずとも勧めとなり、浮華交游を禁じずとも自ずと息みましょう。大いなる教化を闡弘(鮮明拡大)することで賓(まつろ)わぬ者を綏んじ、六合(世界)は風を承けて遠人も来朝しましょう。これぞ聖人の教えであり、平治を招致する本義なのです」
後に鎮北将軍に遷り、仮節・都督河北諸軍事となった。劉靖は 「経常(不変)の大法とは守防より善なるは莫く、民夷の別を設けさせる事だ」 とした。かくて辺境の守勢の地を開拓し、険要に屯拠した。又た戻陵渠の大堨(大堤)を修治して広くし、水は薊の南北を漑灌し、三更種稲して辺民の利となった。嘉平六年（254）に薨ずると、征北将軍を追贈し、建成郷侯に進封し、景侯と諡した。子の劉熙が嗣いだ[1]。劉弘が挙用した寒門の人材としては、後に名将と謳われる陶侃もいます。それはともかく、劉弘の人事は国家危急の際の適宜な措置ですが、それでも当時にあっては頗る異例の行ないです。何せ西晋では官途に就く最大条件が門閥や姻縁に由来する名士判定の有無で、実務能力が不明な夏侯渉を騒乱の最前線である襄陽の太守に据えようとした朝廷の措置こそが至極当然のものでした。やや後の事になりますが、東晋初期最大の乱とされる蘇峻の乱に於いて、陶侃は既に名将としての名声も地位も確立していましたが、それでも名族出身で時の執政だった庾亮は陶侃を賤しんで、国都を陥されて逃避中だったにもかかわらず陶侃に救援要請を出すのを渋り続けたそうです。こうした世相ですので、劉弘の人事はまさに驚天の英断だったと謂えます。尤も、劉弘の死後は再び名族理論が行なわれ、襄陽は間もなく乱れましたが。
広漢太守辛冉が、天子が蒙塵して四方が雲擾した事を以て、縦横(自立)の計を劉弘に進言した。劉弘は怒ってこれを斬り、時人で称善せぬ者は莫かった。 (『晋陽秋』)司馬朗字伯達、河内温人也。九歳、人有道其父字者、朗曰：「慢人親者、不敬其親者也。」客謝之。十二、試經為童子郎、監試者以其身體壯大、疑朗匿年、劾問。朗曰：「朗之内外外、累世長大、朗雖穉弱、無仰高之風、損年以求早成、非志所為也。」監試者異之。後關東兵起、故冀州刺史李邵家居野王、近山險、欲徙居温。朗謂邵曰：「脣齒之喩、豈唯虞・虢、温與野王即是也；今去彼而居此、是為避朝亡之期耳。且君、國人之望也、今寇未至而先徙、帶山之縣必駭、是搖動民之心而開姦宄之原也、竊為郡内憂之。」邵不從。邊山之民果亂、内徙、或為寇鈔。
※ 虞・虢は共に晋に隣接していた春秋時代の由緒ある小国。両国が提携している間は晋も侵攻しなかったが、晋が虢を攻めるにあたり、晋に贈賄された虞は晋軍の領内通過を認め、虢が滅ぼされた数年後には虞もまた晋に滅ぼされた。仮道伐虢とも。
李邵は従わなかった。辺山の民は果して混乱し、内地に徙ったり、或いは寇鈔するようになった。是時董卓遷天子都長安、卓因留洛陽。朗父防為治書御史、當徙西、以四方雲擾、乃遣朗將家屬還本縣。或有告朗欲逃亡者、執以詣卓、卓謂朗曰：「卿與吾亡兒同歳、幾大相負！」朗因曰：「明公以高世之德、遭陽九之會、清除羣穢、廣舉賢士、此誠虚心垂慮、將興至治也。威德以隆、功業以著、而兵難日起、州郡鼎沸、郊境之内、民不安業、捐棄居産、流亡藏竄、雖四關設禁、重加刑戮、猶不絶息、此朗之所以於邑也。願明公監觀往事、少加三思、即榮名並於日月、伊・周不足侔也。」卓曰：「吾亦悟之、卿言有意！」
「幾大相負」 を筑摩本に準じて訳しましたが、どうにも 「卿與吾亡兒同歳」 からの流れにスムーズさが感じられません。「我が子と同い年の若僧に騙されるところだった！」 的なニュアンスですかね？ その後に続く司馬朗の言葉も弁明ではありませんし。 “相”を入れている点とか、洛陽時代の董卓が名族の懐柔に積極的だった事を考えると、“負”を“負託”と解釈して 「後事を任せようと思ったのにぃ！」 としても良さそうな気がしなくもありません。司馬朗の弁明は、董卓を持ち上げてイイ気分にさせたものとも、董卓の採るべき今後の方針を割と真面目に説いたものとも解釈できるのが一層厄介です。事実がどうあれ陳寿が、司馬氏が董卓に与したように書ける訳がありませんが。
司馬朗 「明公は高世の徳を以て陽九の会(終末の世)に遭われ、群穢を清除し、広く賢士を挙げており、これは誠に虚心から思慮を垂れているもので、至治の世を興そうとしているものです。威徳は隆んで功業は著しいのに、兵難は日々に起き、州郡は鼎沸し、郊境の内では民は生業に安んぜず、住居・資産を捐棄して流亡藏竄しております。四関が禁を設け、刑戮は重きを加えているとはいえ、猶おも絶え息まず、これぞ私が邑(うれ)える理由であります。願わくば明公よ、往事を監観して少しく三思を加えられん事を。そうすれば栄名は日月と並び、伊尹・周公とて侔(ひとし)くするには不足となりましょう」 。朗知卓必亡、恐見留、即散財物以賂遺卓用事者、求歸郷里。到謂父老曰：「董卓悖逆、為天下所讐、此忠臣義士奮發之時也。郡與京都境壤相接、洛東有成皋、北界大河、天下興義兵者若未得進、其勢必停於此。此乃四分五裂戰爭之地、難以自安、不如及道路尚通、舉宗東到黎陽。黎陽有營兵、趙威孫郷里舊婚、為監營謁者、統兵馬、足以為主。若後有變、徐復觀望未晩也。」父老戀舊、莫有從者、惟同縣趙咨、將家屬倶與朗往焉。後數月、關東諸州郡起兵、衆數十萬、皆集滎陽及河内。諸將不能相一、縱兵鈔掠、民人死者且半。久之、關東兵散、太祖與呂布相持於濮陽、朗乃將家還温。時歳大饑、人相食、朗收恤宗族、教訓諸弟、不為衰世解業。
事前に山東の挙兵を予期した司馬朗スゲー！という主旨ですが、果して河内太守王匡の蜂起と、どちらが後先なのかが気になる処です。又た黎陽営の役割を考えると、この時点での監黎陽営謁者は寧ろ朝廷＝董卓派であった可能性が高く、司馬朗の行動は董卓を支援する目的だったのかもとも考えられます。董卓が洛陽を放棄した結果として袁紹が河内に進出するので、あるいは司馬朗が 「知卓必亡」 して東奔したのは、実は董卓が孫堅に敗北した結果だったのを前倒しして書いたのかもしれません。
ともあれ、ここまでの司馬朗の動きは荀彧と非常に似ています。郷里を離れた動機も、郷人の多くが従わなかった点も、冀州を頼りながらも袁紹に事えなかった点も。それにしても河内を荒廃させたのは袁紹ら関東諸侯だというのが司馬氏の公式見解のようです。事実そうなんでしょうが、曹操が関東諸侯の一員だった事を考えると、“司馬氏は漢の為に魏を滅ぼした”という巷談が俄かに真実味を帯びてきます。こう考えると、晋が魏史だけでなく蜀史をも国史に含め、呉史を慮外に置いていたのもなんとなく理解できます。
年二十二、太祖辟為司空掾屬、除成皋令、以病去、復為堂陽長。其治務寬惠、不行鞭杖、而民不犯禁。先時、民有徙充都内者、後縣調當作船、徙民恐其不辦、乃相率私還助之、其見愛如此。遷元城令、入為丞相主簿。朗以為天下土崩之勢、由秦滅五等之制、而郡國無蒐狩習戰之備故也。今雖五等未可復行、可令州郡並置兵、外備四夷、内威不軌、於策為長。又以為宜復井田。往者以民各有累世之業、難中奪之、是以至今。今承大亂之後、民人分散、土業無主、皆為公田、宜及此時復之。議雖未施行、然州郡領兵、朗本意也。遷兗州刺史、政化大行、百姓稱之。雖在軍旅、常麤衣惡食、儉以率下。雅好人倫典籍、郷人李覿等盛得名譽、朗常顯貶下之；後覿等敗、時人服焉。鍾繇・王粲著論云：「非聖人不能致太平。」朗以為「伊・顏之徒雖非聖人、使得數世相承、太平可致」建安二十二年、與夏侯惇・臧霸等征呉。到居巣、軍士大疫、朗躬巡視、致醫藥。遇疾卒、時年四十七。遺命布衣幅巾、斂以時服、州人追思之。明帝即位、封朗子遺昌武亭侯、邑百戸。朗弟孚又以子望繼朗後。遺薨、望子洪嗣。
五等爵の復活、諸侯王の軍備増強、田制の改変はいずれも晋になって制度化されたもので、こうした潮流を司馬氏の嫡長子が漢末には想定していた、という付会記事という以上のものではありません。だいたい当時の戦乱が収まらないのは州郡が規格外の兵力を持ったからなのは明らかだし、五等爵の廃止から乱世に辿りつくまでの過程が全く示されていません。
「往古には民は各々が累世の生業を持ち、中途で奪うのが難しかったので今に至っている。今や大乱の後を承け、民人は分散し、土業(農地)には主が無く、皆な公田となっている。この機に乗じて（井田制を）復旧すべきである」と。議が実施されなかったとはいえ、州郡が領兵しているのは司馬朗の本意だった。兗州刺史に遷ると政化は大いに行なわれ、百姓はこれを称えた。軍旅に在っても常に麤衣悪食し、質倹さで下々を率いた。この記事から逆算した司馬朗の生年は170年ですが、曹操が司空に就いた196年以降に、22歳で司空掾属になったのなら175年以降の生まれとなります。二七を二十二と誤記したのか、享年の四十三を誤記したのかは五里霧中です。
明帝が即位すると、司馬朗の子の司馬遺が昌武亭侯に封じられ、百戸を食邑とした。司馬朗の弟の司馬孚は又た子の司馬望に司馬朗の後を継がせた。司馬遺が薨じ、司馬望の子の司馬洪が嗣いだ[5]。初朗所與倶徙趙咨、官至太常、為世好士。
このように、董卓の処罰を司馬朗が巧いこと言い逃れたと解釈するのが、少なくとも『三國志』を読む上では真っ当です。でもその一方で、司馬氏の御用史書でありながら董卓に対する窘めの言葉一つすら無いのも不自然で、この点に陳寿の“仕込み”を疑いたくなってしまいます。
梁習字子虞、陳郡柘人也、為郡綱紀。太祖為司空、辟召為漳長、累轉乘氏・海西・下邳令、所在有治名。還為西曹令史、遷為屬。并土新附、習以別部司馬領并州刺史。時承高幹荒亂之餘、胡狄在界、張雄跋扈、吏民亡叛、入其部落；兵家擁衆、作為寇害、更相扇動、往往棊跱。習到官、誘諭招納、皆禮召其豪右、稍稍薦舉、使詣幕府；豪右已盡、乃次發諸丁彊以為義從；又因大軍出征、分請以為勇力。吏兵已去之後、稍移其家、前後送鄴、凡數萬口；其不從命者、興兵致討、斬首千數、降附者萬計。單于恭順、名王稽顙、部曲服事供職、同於編戸。邊境肅清、百姓布野、勤勸農桑、令行禁止。貢達名士、咸顯於世、語在常林傳。太祖嘉之、賜爵關内侯、更拜為真。長老稱詠、以為自所聞識、刺史未有及習者。
「海西・淮浦の二県の民が乱を作すと、都尉衛彌と県令梁習が夜中に徐宣の家に奔馳し、密かに送り出したので免れた。」(徐宣伝より) これが治名の実態ですが、本人にとっての不都合は極力隠すのが正史クオリティ。
還って西曹令史となり、遷って（西曹）属となった[※]。※ 属は曹の副主任。主任は掾と呼ばれ、共に人事を担当した。
幷州は新附したばかりで、梁習は別部司馬として幷州刺史を兼領した。時に高幹による荒乱の余燼を承け、胡狄が界内に在って張雄跋扈し、吏民の亡叛した者はその部落に入った。兵家は手勢を擁して寇害を作し、更めて扇動し合い、往往にして棊跱(割拠)していた。梁習は官に到ると誘諭招納し、豪右を皆な礼によって召し、次第に薦挙して幕府に詣らせた。豪右が已に尽きると、次第に諸々の壮彊の丁男を徴発して義従(従卒)とし、又た大軍が出征した際には、分けて（征軍の）勇力とせん事を請うた。吏兵が去った後に次第にその家を移し、前後して鄴に送ったのは凡そ数万口となった。命令に従わぬ者は兵を興して討ち、斬首は千を数え、降附者は万を計った。単于は恭順し、（匈奴・鮮卑の）名王は稽顙(頓首)し、部曲が服事供職すること編戸(内地の戸籍民)と同様だった。辺境は粛清となり、百姓は野に布く、農桑を勤勧し、禁令は行なわれた。貢達(薦挙)した名士は咸な世に顕れた。物語は常林伝に在る。曹操はこれを嘉して爵関内侯を賜い、更めて拝して真刺史とした。長老が称詠(称賛)するには、自身が聞き識る刺史でも未だ梁習に及ぶ者はいないと。建安十八年、州并屬冀州、更拜議郎・西部都督從事、統屬冀州、總故部曲。又使於上黨取大材供鄴宮室。習表置屯田都尉二人、領客六百夫、於道次耕種菽粟、以給人牛之費。後單于入侍、西北無虞、習之績也。文帝踐阼、復置并州、復為刺史、進封申門亭侯、邑百戸；政治常為天下最。太和二年、徴拜大司農。習在州二十餘年、而居處貧窮、無方面珍物、明帝異之、禮賜甚厚。四年、薨、子施嗣。
[注1]では鮮卑への対処を長々と語っていますが、本文の記述から憶測すると、梁習は専ら境内に牙庭を設けた匈奴の統制を担当したようです。そのせいかどかは判りませんが、文帝紀の黄初六年（225）にある 「幷州刺史梁習が鮮卑の軻比能を大破した」 記事が梁習伝には無く、又た同時期に鮮卑問題で協力し合っていた筈の田豫・牽招の列伝にも梁習の名は現れません。
太和二年（228）に徴されて大司農を拝命した。梁習は州に在ること二十余年だったが、居処は貧窮し、方面の珍物とて無かった。明帝はこれを異とし、礼遇・賜物は甚だ厚かった。四年（230）に薨じ、子の梁施が嗣いだ。初、濟陰王思與習倶為西曹令史。思因直日白事、失太祖指。太祖大怒、教召主者、將加重辟。時思近出、習代往對、已被收執矣、思乃馳還、自陳己罪、罪應受死。太祖歎習之不言、思之識分、曰：「何意吾軍中有二義士乎？」後同時擢為刺史、思領豫州。思亦能吏、然苛碎無大體、官至九卿、封列侯。
※ 駁には複数の意味がありますが、“純”に対応させているので、“雑”となるのでしょう。雑は純粋ではないという事で、そのまま訳すと“雑吏”“濁吏”となりますが、一切の非を許さぬ融通の利かない“純”に対し、清濁あわせ呑む大度を曹丕らしい表現で“駁”としたものと思われます。
―― 王思の為人りは煩砕ではなかったが、文書に曉練(通暁練達)しており、賢を敬い士を礼遇し、形勢に意を傾け、亦たこれによっても名を顕した。正始中に大司農となったが、年老いて目は瞑み、瞋怒には制限が無く、下吏は嗷然(狼狽)として原因が分らなかった。性は信じる事が少なく、時に父の病が篤くなった吏がおり、郊外の近くの宿舎にいるとの事で、自ら申して休暇を求めた処、王思は事実ではない事を疑い、発怒して 「世には婦人を思って母を病ませる者がいるが、これを謂うのか！」。かくて暇を与えなかった。吏の父は明日に死んだが、王思には惜しむ心が無かった。その刻薄なことはこの類いである。王思は又た性急で、あるとき筆を執って書を作していた処、蠅が筆の端に集まり、駆去しては復た来るといった事が再三だった。王思は恚怒し、起って蠅を逐ったものの果せず、還って筆を取るや地に擲って蹋壊(踏壊)した。時に丹陽の施畏・魯郡の倪顗・南陽の胡業も亦た刺史・郡守となり、時人はこれらを苛暴だと謂った。