周瑜、字は公瑾。廬江舒の人である。従祖父の周景、周景の子の周忠は、皆な漢の太尉となった[1]。父の周異は、洛陽令。

　周瑜は長じて壮年（成人）になると姿貌があった。孫堅が義兵を興して董卓を討った時、家を舒に徙した。孫堅の子の孫策は周瑜とは同年で、独りだけ相い友善し、周瑜は道の南の大宅を孫策の寄舎とし、堂に昇って母に拝礼し、無い物は融通して共有した。

　孫堅がなぜ周氏を頼ったかについては孫策伝で考えたので、ここでは当時の周氏の実情について。霊帝の最末期の当主は恐らく上記の周忠です。その子の周暉は朝廷を見限って地元に勢力を保っていましたが、たまたま洛陽の父を訪ねた処で董卓に殺され、郷里の実家は大ダメージを受けたそうです。当時の董卓はまだ名士に好意的で、周忠も害されてはいないので、周暉が個人的に董卓の逆鱗に触れたんでしょう。『後漢書』では 「地元での勢力を警戒された」 とあります。
　周瑜と魯粛の出会いのきっかけが“一倉の穀”だったというのは、手勢を養う事もままならない当時の周家の実勢力を示す逸話でもあります。

周瑜の従父（おじ）の周尚が丹楊太守となり、周瑜は往って省（たず）ねた。折しも孫策が東に渡ろうとして歴陽（馬鞍山市和県）に到り、書を馳せて周瑜に報じ、周瑜は兵を率いて孫策を迎えた。孫策は大いに喜び、「私が卿を得たからには（万事）諧（かな）おう」 かくて横江と（東岸の）当利（南京市江寧区西南郊）を攻めるのに従い、皆な抜いた。かくして渡江して秣陵（南京市区）を撃ち、笮融・薛禮を破り、転じて湖孰・江乗に下り、曲阿（鎮江市丹陽）に進入し、劉繇が奔走する頃には孫策の手勢は已に数万となっていた。このため周瑜に謂うには 「俺のこの軍兵なら呉会を取り、山越を平らげるのに充分だ。卿は還って丹楊を鎮めてくれ」 周瑜は還った。

　ここまでの事は孫呉の立場に配慮して、かなり孫策に盛った書き方になっている事も孫策伝で見ました。例えば呉会を取るのに孫策の手勢では全く足りず、実家に泣き付いたりとか。ここまでの周瑜は、孫策との間に友情はあったかもしれませんが、立場的には周瑜の方が遥かに高く、又たその行動は、あくまでも袁術一家の方針に沿ったものに過ぎません。周家の当主はおそらく周尚であり、孫策を住まわせた大宅だって周尚の本宅だろうし、態のいい人質として軟禁したとも見做せます。

しばらくして、袁術が従弟の袁胤を遣って周尚に代えて太守とし、周瑜は周尚と倶に寿春に還った。袁術は周瑜を将にしようとしたが、周瑜は袁術が終には成功しないと観て、そのため居巣県長となる事を求め、塗（みち）に仮して東帰しようと考え、袁術はこれを聴許した。かくて居巣より呉に還った。この歳は建安三年（198）である。

　ここで“袁術の僭称を避けた”と書いていないのも謎っちゃあ謎ですが、周尚と周氏本家のその後も謎です。周尚の死で没落したか、袁術と一蓮したかは不明ですが、周瑜が本家と別行動を採る事で一方が生き残れるように措置したのかな、と考えています。

孫策は親しく自ら周瑜を迎え、建威中郎将を授け、即座に兵二千・騎馬五十匹を与えた[2]。周瑜は時に齢二十四であり、呉中は皆な周郎と呼んだ。

　この頃の孫策陣営の主要人物の軍号を見てみると、将軍号は孫策のほか孫賁だけが帯び、将軍に次ぐ中郎将は周瑜の他には張昭くらいのものです。程普・呂範すらこの時点では中郎将に達していません。周瑜に対する孫策の待遇がどれほど破格のものかを示す一例となります。

周瑜の恩信が廬江に著しい事から、（呉から）出して牛渚（馬鞍山市花山区）の備えとし、後に春穀県長を領（か）ねさせた。暫くして、孫策は荊州を取ろうと考えて周瑜を中護軍とし、江夏太守を領ねさせた。皖の攻略に従い、これを抜いた。時に橋公の両女を得、皆な国色（傾国の容色）であった。孫策は自ら大橋を納れ、周瑜は小橋を納れた[3]。復た尋陽に進み、劉勲を破り、江夏を討ち、還って豫章・廬陵を定め、巴丘に留鎮した[4]。

　巴丘のような辺境に駐留した理由は、孫賁伝を補う『江表伝』によれば、孫輔を援けて廬陵を平定する為だとあります。周瑜が孫策の葬儀に 「馳せた」 とある事から、その頃までこの地方の平定に従事していたんでしょう。平面的な地図を見ていて、つい張羨との呼応もしくは湖南進出を模索していたかと考えてしまいましたが、羅霄山脈という現実に阻まれました。

　建安五年（200）、孫策が薨じ、孫権が事を統べた。周瑜は兵を率いて喪に赴き、かくて呉に留まり、中護軍として（孫権の）長史張昭と共に衆事を掌った[5]。
　十一年（206）、（領丹楊太守）孫瑜らを督して麻・保の二屯を討ち、その渠帥を梟首し、俘虜万余口を囚え、還って宮亭にて備えた。江夏太守黄祖が将の�ｹ龍を遣って兵数千人を率いて柴桑に入らせると、周瑜は追討して撃ち、�ｹ龍を生虜して呉に送った。十三年（208）春、孫権は江夏を討ち、周瑜を前部大督とした。

　孫権が立ってから黄祖を滅ぼすまでの間の周瑜の動きが知りたいんですがー。呉主伝を見る限りだと国内の平定に諸将を派遣していますが、そちらでは周瑜の名前は一度しか出てきません。宮亭は筑摩本の地図で鄱陽湖の東岸に位置しているので、江夏に対する防衛を担った事は想像できますが、程普をはじめとする諸将に比べて動きが少なく、別の目的を有していたか、もしくは内定の功を挙げさせたくなかったんじゃないかと勘繰りたくなってきます。何せ黄祖を滅ぼした時すら褒賞されていませんし。

　その年の九月、曹操が荊州に入ると劉�jは衆を挙げて降り、曹操はその水軍を得、船兵・歩兵は数十万となり、将士はこれを聞くと皆な恐れた。孫権は群下を延見して計策を問うた。議者は咸な 「曹公は豺虎であり、しかも名分を漢の丞相に託し、天子を挾んで四方を征し、その行動は朝廷の辞を理由としているので、今日これを拒めば事態は更めて面倒になります。しかも将軍が大勢として曹操を拒ぐ事を可能としてきたのは長江であります。今、曹操は荊州を得、その地を奄（おお）い、劉表の治めた水軍の蒙衝・闘艦は千を単位とするもので、曹操は悉くを浮かべて江に沿い、しかも有している歩兵で水陸を倶に下っております。これは長江の険を已に我らと共にしているというものです。しかも勢力の衆寡は、又た論ずる必要もございません。愚考するに大計としてこれを迎えるに越した事はありません」
周瑜 「そうではない。曹操は名分を漢相に託しているとはいえ、実質は漢の賊である。将軍は神武雄才であり、加えて父兄の烈功に仗って江東に割拠し、その地はまさに数千里、兵・糧とも有用とするに充分で、英雄は事業を楽しんでいる。今こそ天下に横行し、漢家の残穢を除去しなければならない。ましてや曹操は自らを死に送ってきたのに、これを迎える必要があろうか？ 将軍の為に籌（はか）らせてもらうなら、今、たとえ北土が已に安んじられ、曹操に内憂が無く、曠日（長期）の持久によって疆埸（辺境）を争う事が可能だとして、又た我らと船楫の間で勝負ができましょうか？ 今、北土は未だに平安ではなく、加えて馬超・韓遂は尚お関西に在り、曹操の後患を為しています。しかも鞍馬を捨て舟楫に仗り、呉越と争衡しようなど、基本的に中国の得意とする所ではありません。又た今は盛寒であり、馬には藁草が無く、中国の士衆を駆って遠く江湖の間を渉るからには、水土に習（な）れず、必ず疾病を生じましょう。この複数の事は、用兵上の憂患であり、しかも曹操は皆なこれを冒しております。将軍が曹操を禽えるのは、今日に在るのです。精兵三万人を頂きたい。進んで夏口に駐まり、将軍の為にこれを破る事を保証しましょう」
孫権 「老賊が漢を廃して自立せんとして久しく、ただ忌むのは二袁・呂布・劉表と孤のみであった。今、数々の英雄は已に滅び、ただ孤だけが尚お存在している。孤と老賊とは形勢として両立しない。君の撃つべしとの言葉は、甚だ孤と合致している。これは天が君を孤に授けたというものだ」[6]

　時に劉備は曹操に破られ、南に引き退いて渡江しようとしていたが、魯粛と当陽で遭遇すると共に計を図り、そのため進んで夏口に駐まり、諸葛亮を遣って孫権に詣らせた。

　このとき孫権が柴桑まで出てきていた事は、諸葛亮伝で言及されています。というか、呉主伝その他で孫権の居場所に言及してくれません。せめて魯粛伝に書けよ。

孫権はかくて周瑜および程普らを遣って劉備と力を併せて曹操を逆（むか）えさせ、赤壁で遭遇した。時に曹操の軍兵には已に疾病が生じ、初めに一たび交戦すると曹操の軍は敗退し、引き退いて江北に次（やど）った。周瑜らは南岸に在った。
周瑜の部将の黄蓋が 「今、寇賊は衆（おお）く我が軍は寡（すくな）く、持久する事は困難です。観たところ曹操軍の船艦は首と尾を相い接しており、焼いて走らせられましょう」 かくして蒙衝・闘艦の数十艘を取り出し、薪草を中実とし、膏油をその中に灌ぎ、帷幕にて裹（おお）って上に牙旗（大将旗）を建て、先んじで書簡にて曹操に報じ、降伏したいと欺いた[7]。 又た予め走舸を備え、各々を大船の後に繋ぎ、引き次いで倶に前進した。曹操軍の吏士は皆な頸を延ばして観望し、指して黄蓋が降ると言った。黄蓋は諸々の船を放ち、時を同じくして火を発した。時に風は猛く盛んで、悉く岸上の営落に延焼した。しばらくして煙炎は天に張（みなぎ）り、人馬の焼溺した死者は甚だ衆く、軍はかくて敗退し、還って南郡に保（こも）った[8]。劉備は周瑜らと復た共に追った。曹操は曹仁らを留めて江陵城を守らせ、まっすぐ自身は北帰した

　周瑜は程普と又た南郡に進み、曹仁と各々大江を隔てて相い対峙した。兵が交鋒する前[9]、周瑜は即座に甘寧を遣って前んで夷陵に拠らせた。曹仁は歩騎を分けて別に甘寧を攻囲させた。甘寧は周瑜に急を告げた。周瑜は呂蒙の計を用い、淩統を留めて後背を守らせ、身ずから呂蒙と遡上して甘寧を救った。甘寧は包囲が解かれた後、渡江して北岸に屯営し、期日を克（さだ）めて大いに戦った。周瑜は親しく馬に跨って戦陣を擽（う）ち、たまたま流矢が右脅（脇腹）に中り、瘡は甚だしく、ただちに還った。後に曹仁は周瑜が臥せって未だ起てないと聞くと、兵を勒（ひき）いて（周瑜の）陣に就いた。周瑜はかくして自ら興き、軍営を案行して吏士を激揚し、曹仁はこれによって退いた。

　孫権は周瑜を偏将軍に拝し、南郡太守を領ねさせた。（長沙の）下雋（湖北省咸寧市通城）・漢昌（岳陽市平江）・劉陽（長沙市瀏陽）と（南郡の）州陵（仙桃市）を奉邑とし、江陵に屯拠した。劉備は左将軍・領荊州牧として（江陵の対岸の）公安（湖北省荊州市）にて治めた。
劉備が京口（鎮江市京口区）に詣って孫権に通見すると、周瑜は上疏した

「劉備は梟雄の天姿があり、しかも関羽・張飛という熊虎の将を持ち、必ず久しくは屈して人の用を為す者ではありません。愚が大計を考えるに劉備を徙して呉に置き、盛んに宮室を築き、美女や玩好を多くしてその耳目を娯しませ、この二人と分つのが宜しいでしょう。各々を一方面に置き、私の様な者に挟（お）びさせて攻戦させれば、大事を定める事が出来ましょう。今、猥りに土地を割いて事業の資とし、この三人が聚（あつ）まって倶に疆埸（辺境）に在るようになれば、恐らくは蛟龍が雲雨を得るようなもので、終には池中の物とはならないでしょう」

孫権は、曹操が北方に在り、まさに英雄を広く擥（と）るべきで、又た劉備が卒（つい）には制し難くなる事を恐れ、そのため受納しなかった。

　このとき劉璋は益州牧だったが、外には張魯の寇侵があり、周瑜はかくして京口に詣って孫権に通見し

「今、曹操は新たに折衂（挫折）したばかりで、その憂慮は腹心に在り、未だに将軍とは兵を連ねて事を構えは出来ますまい。奮威将軍と倶に進んで蜀を取り、蜀を得たら張魯を併せ、そうして奮威将軍を留めてその地を固守させ、馬超と好誼して支援を結びたく存じます。私は還ったら将軍と襄陽に拠って曹操に䠞（せま）れば、北方を図る事ができます」

孫権はこれを許認した。周瑜は江陵に還って行裝（戎装）をしたが、道中の巴丘で病んで卒し[10]、時に齢三十六だった。孫権は素服（白い喪服）にて哀哭を挙げ、左右の者は感動した。喪が呉に還ると、又たこれを蕪湖に迎え、衆事の費用と支度の一切を供給した。後に布令を著した。「故の将軍周瑜・程普に人客（未登録の寄留者）があっても皆な問題としてはならない」
　当初から周瑜は孫策に友遇され、（孫策が歿すると）呉太妃も又た孫権に兄礼を奉じさせた。このとき孫権の位は将軍であり、諸将や賓客の礼は尚おも簡素だったが、周瑜は独り先んじて敬意を尽し、ただちに臣節を執った。性として度量は恢廓（弘寛）で、大いに人心を得たが、ただ程普とは睦まなかった[11]。

　周瑜は少（わか）くして音楽に精（くわ）しく、三たび爵が廻った後でも闕誤があれば、周瑜は必ずこれを知り、知れば必ず顧み、そのため時人は 「曲有誤、周郎顧」 と謡った。

　周瑜には二男一女があった。娘は太子孫登に配偶された。男子の周循は公主（孫魯班）を尚（めと）り、騎都尉に拝され、周瑜の風があったが、早くに卒した。周循の弟の周胤は、初め興業都尉を拝し、宗女を妻り、兵千人を授かって公安に屯した。黄龍元年（229）、都郷侯に封じられ、後に罪によって廬陵郡に徙された。赤烏二年（239）、諸葛瑾・歩隲が連名で上疏するには 孫権の答え 「公瑾の勲功は忘れるものではない。周胤が少年の頃、功労の無いまま精兵を授け、侯爵として将としたのは、公瑾への思いを周胤に及ぼそうとしたからだ。しかし周胤はこれを恃んで酗淫（酒色）し放題で、幾度諭しても悛改しようとしなかった。孤の公瑾に対する思いは二君と同じだ。周胤が成就する事を楽しみにしているが、どうして（それで処罰を）已めようか？

　ここ、筑摩本では 「個人的に含むところなどまったくない」 と訳されています。いかにもな言い訳にしか見えず、孫権が周瑜を実は嫌っていたという私見の根拠の一つにもしました。原文に当ってみて本当に良かった…。訂正します。周胤は孫権による周氏排斥に格好の口実を提供しただけでした。

周胤を責め抜いて赦す事を引き延ばしているのは、苦しめて自覚させる為なんだ。べ、べつにＳじゃないんだからね！ 今、二君が漢高祖の誓いを引用したので、孤は恧（は）ずかしい！ 孤とて高祖に近づきたいんだ。しかしこんな事情だから順わない。公瑾の子だし、しかも二君が仲介した。改悛してくれればＯＫだ！」
諸葛瑾・歩隲の表が上書されると、朱然および全�jも亦た倶に陳情し、孫権もかくして許した。たまたま周胤は病死した。

　周瑜の兄の子の周峻も、亦た周瑜の元勲の功によって偏将軍となり、吏士千人を領した。周峻が卒すると、全�jが上表して周峻の子の周護を将に（推）した。孫権は 「昔、曹操を走らせ、荊州を拓いたのは皆な公瑾であり、常にこれを忘れはしない。初め周峻が亡くなったと聞き、周護を用いようと思ったが、聞けば周護の性行は危険で、用いれば禍を作しそうなので止めにした。孤は公瑾を念っているが、どうして（それで回避を）已められようか？」

　周瑜の領兵は四千人、采邑は四県でした。駐屯地を采邑とする呉に於いて、周瑜の領地は能力未知数の若造が襲ぐには余りに難しい場所でしたし、周胤の素行不良を見た限りだと結果オーライですが、初めっから領兵すら継承させなかった点にどうしても孫権の銜意というものが垣間見えてしまいます。
廬江周氏は孫呉でもかなり上位の名族の筈ですが、周循の死後は全く振わず、元勲でありながらその子孫に追贈された封爵は都郷侯でしかなく、孫の世代の事は周護に対する短い批判だけといった有様です。別に将軍や督でなくとも、功臣の子孫を優待する方法はあるだろうに。
　全�jが積極的に周氏を取り成しているのは、やはり奥さんに懇願されたんでしょう。

　魯粛、字は子敬。臨淮東城の人である。生まれてすぐ父を失い、祖母と同居した。家は財に富み、性は施しを好んだ。当時、天下は已に乱れていたが、魯粛は家業を治めず、大いに財貨を散じ、田地を摽売（売却）し、窮弊に賑って士と結ぶ事を務めとし、甚だ郷邑の歓心を得た。

　周瑜は（袁術を避けて）居巣県長になり、数百人を率いて故意に通過して魯粛に伺候し、併せて資糧を求めた。魯粛の家には両囷（二つの穀倉）に米があり、各々三千斛であったが、魯粛は一囷を指して周瑜に与え、周瑜はますます奇士であると知り、かくて親交を結んで僑・札（子産と季札）の分を定めた。袁術はその名声を聞くと現地に就いて東城県長に署（つ）けた。魯粛が見るに袁術には綱紀が無く、与に事を立てるには不充分であり、かくして老弱を携え、軽侠の少年百余人を率いて南のかた居巣に到って周瑜に就いた。周瑜が東渡した際には与に同行し[1]、家族は曲阿に留めた。たまたま祖母が亡くなり、還って東城に葬った。

　見ようによっては周瑜と袁術による魯粛の取り合いです。魯粛は周瑜を択びましたが、袁術の寿春と周瑜の居巣と魯粛の東城の位置関係を確かめると、周瑜が袁術の勢力圏にまで 「わざわざ」 魯粛を釣り上げに行った事が解ります。私は「故意に」と直訳しましたが、筑摩本の「わざわざ」の方がニュアンス的に正解でしょう。

　劉子揚は魯粛と友善であり、魯粛に書簡を遺(おく)って曰く 魯粛はその計りごとに同意して返答した。葬儀を畢（お）えて曲阿に還ると北に行こうとした。折しも周瑜が已に魯粛の母を徙して呉に到っており、魯粛は具さに周瑜に状況を語った。時に孫策は已に薨じ、孫権は尚おも呉に駐まっていた。

　注[1]『呉書』では孫策に“雅奇”と見込まれた魯粛が、その孫策が死ぬや孫氏を見限ろうとした事になります。恐らくは『呉書』が虚飾で、魯粛は用いられもせず無聊を囲っていたんでしょう。だからこそ、劉曄の誘いに乗ろうとした訳で。それにしてもお母さん健在だったんですね。祖母と同居して母と別居ってのが不自然ですが、曲阿には同行していたようです。

周瑜が魯粛に謂うには 「昔、馬援が光武帝に答えて云うには“今の世はただ君が臣を択ぶのではなく、臣も復た君を択ぶ”と。今、主人は賢に親しみ士を貴び、奇を納れて異を録している。しかも私が聞くところでは、先哲の秘論として天運を承けて劉氏に代る者は必ず東南に興ると。事勢を推歩（推占）するに、まさに（孫氏の事は）暦数であり、終には帝基を搆じ、天符に協（かな）うというもので、これこそ烈士が攀龍附鳳して馳騖（奔馳）する秋（とき）というものだ。私はまさにこれに到達した。足下は劉子揚の言葉など決して意に介さぬよう」
魯粛はその言葉に従った。周瑜はこうして魯粛を薦めるには、その才が時を佐けるのに宜（かな）っており、このような者を広く求めて功業を達成すべきで、去らせてはならないと。

　この周瑜の説得も韋昭あたりの勝手な後付けでしょう。「孫権は人材集めに熱心ですよ」 くらいの事は云ってるでしょうが、帝基だの天符だのをこの時点で意識しているのは、孫呉集団にはおりません。孫権が帝位を意識するのはもっと後の、劉備の死後でしょう。大体、ここで周瑜がこんな事を云っているなら、赤壁に臨んで 「漢室の残穢を除去しよう！」 なんて云う筈がありません。

　孫権は即座に魯粛を引見し、与に語って甚だ悦んだ。衆くの賓客が（接見を）罷（お）えて退出し、魯粛も亦た辞去したが、独り引きとめて魯粛を還し、榻を合わせて相対して飲んだ。こうして密かに議すには 「今、漢室は傾頽して危うく、四方では擾乱が雲起し、孤は父兄の余業を承け、桓文の功を為そうと思っている。君を恵顧したのだが、どうやって佐けてくれる？」
魯粛 「昔、高帝が区々たりし時に義帝を尊び臣事しようとしながら獲られなかったのは、項羽が害を為したからです。今の曹操は猶お昔の項羽のようで、将軍は何によって桓文と為れましょうか？ 私が竊かに料（はか）るに、漢室の復興はできず、曹操を即座に除く事も出来ません。将軍の為に計るに、ただ江東を鼎足とし、天下の釁（すき）を観望するのです。このように模範を規（さだ）めれば、亦た自ら嫌（うたが）ことはありません。何故か？ 北方には誠に務めが多いからです。その務めの多さに乗じて黄祖を剿除し、進んで劉表を伐ち、竟（つい）に長江を極めて拠有し、然る後に帝王の号を建てて天下を図るのです。これぞ高帝の事業です」
孫権 「今、一方に尽力し、漢を輔ける事だけを冀（こいねが）っている。この言葉は（私の）及ぶものではない」
　張昭は魯粛の謙下（謙遜）が足りていないと非難して頗る訾毀し、魯粛は年少で麤疎（粗忽）なので未だ用いるべきではないと云った。孫権は意に介さず、益々これを貴重し、魯粛の母に衣服・幃帳や住居の雑物を賜い、その富は旧時に擬した。

　この時点での孫権は曹操の東南方面軍総司令官を継いだばかりで、曹操への対抗心すらあったかどうか定かではありません。漢を輔けて曹操の後釜になりたいというのも、背伸びした発言かと思われます。対する魯粛は袁術の無念を晴らせと云っており、その異質性を遺憾なく発揮しています。この魯粛の“簒奪ノ勧メ”は、孫権が僭称した後代でこそ評価されますが、当時は一顧だにされなかった筈で、漢臣を自認する張昭が目くじら立てるのも当然です。この後、魯粛は8年間も放置されているので、今回ばかりは張昭の云いつけは守られたように見えます。尤も、張昭なら 「放逐なさい！」 くらいは云っていても不思議はないので、張昭への嫌がらせを兼ねて上客待遇を続けたのかも。
　ちなみに、同時期採用されたと思しき諸葛瑾は、その伝で採用後の具体的な官職が示されていますが、魯粛にはそれがありません。劉備の雇傭を成功させるまで魯粛が飼殺し状態だった一つの傍証です。

　劉表が死んだ。魯粛は進んで説いた 孫権は即座に魯粛を遣って行かせた。夏口に到った時、曹操が已に荊州に向ったと聞き、晨夜兼道した。南郡に至った頃、劉表の子の劉�jは已に曹操に降っており、劉備は惶遽（あたふた）と奔走して南に渡江しようとしていた。魯粛はこれを迎えに径行（直行）し、当陽の長阪に到って劉備と会い、孫権の旨を宣騰し、同時に江東の強固さを陳べて劉備に孫権と併力するよう勧めた。劉備は甚だ歓悦した。時に諸葛亮は劉備に相い随っており、魯粛が諸葛亮に 「私は子瑜（諸葛瑾）の友人です」 と謂うと即座に共に交誼を定めた。劉備はかくて夏口に到り、諸葛亮を遣って孫権への使者とし、魯粛も亦た反命（復命）した[2]。

　長阪で遇った時の劉備と魯粛の心中を推測してみます。劉備は生涯屈指の敗北を喫した直後で、扈従はせいぜい百数十人レベルだったと思われ、関羽・劉�gがアテにできるかも定かではない最も不安な状況でした。そんな時に魯粛のこの申し出ですから、そりゃあ“甚歡�ｽ”します。
　一方の魯粛は、本当にあんなデカイ事を云って出てきたのかは定かではありませんが、内心はあの通りだったでしょう。荊州の半ばといわず1/4でも劉備がまとめていれば、それを連れて来た魯粛の功となり、発言権を獲得して念願への一歩が踏み出せます。ところが当の劉備は絵に描いたような敗残将になり果てていたんですから、「オレの将来オワタ…」 となった事でしょう。関羽と劉�gの存在が劉備と魯粛の双方を助け、魯粛の強気を後押しする事になります。

　折しも孫権は曹操が東に之（ゆ）こうとしているとの報告を得、諸将と議した処、皆な孫権にこれを迎える事を勧めたが、魯粛は独り発言しなかった。孫権が更衣に起つと、魯粛は宇下（軒下）に追った。孫権はその意図を知り、魯粛の手を執って 「卿は何を言いたい？」 。
魯粛 「先ほどの人々の議から察するに、専ら将軍を誤らせようとしており、与に大事を図るには足りません。今、私としては曹操を迎えるのも良いのですが、将軍にとってはそうではありません。何故そう言えるのでしょうか？ 今、私が曹操を迎えれば、曹操は私を郷党へ還付し、その名位を品評し、猶お（官位は）下は功曹・従事を失わず、犢車に乗り、吏卒を従え、士林にて交游し、累官しても州郡の官[※]を失う事はないでしょう。将軍が曹操を迎えれば、何処に帰して安んじるのでしょうか？ 願わくば早々に大計を定め、衆人の議を用いる事の莫きように」 。
孫権は歎息し、「あの諸人の議は甚だ孤を失望させた。今、卿は大計を廓開（開陳）し、まさに孤と同じものだ。これは天が卿を私に賜ったものであろう」[3]

※　筑摩本では刺史・太守と訳しています。その前の功曹・従事は地元の名士が就く事の多い吏職で、そんな家門なら最終的に太守・刺史に至るのも不思議ではありません。この発言や、皇族の劉曄との交流があった事などから魯粛の家を名家だと見做す事も出来ますが、父親の名すら伝わらず、郷挙里選されたとも書かれていないので、新興の大地主＝素封家といった程の家門なんでしょう。これは魯粛が吹いたというより、魯粛を讃える為の韋昭の創作かと思われます。そもそも会議の場を離れた内緒話を誰が記録していたんでしょう？

　時に周瑜は使命を受けて鄱陽に至っており、魯粛は追って周瑜を召し還す事を勧めた。かくて周瑜を行事（代行）に任じ、魯粛を賛軍校尉とし、方略の画策を助けさせた。曹操を破走させると魯粛は先んじて還り、孫権は諸将を大いに請（まね）いて魯粛を迎えた。魯粛が入閣して拝そうとするや、孫権は起って敬礼し、こうして謂うには 「子敬よ、孤が鞍を以（ささ）えて下馬するのを迎えれば、卿を顕彰するのに足りるだろうか？」 魯粛は趨り進んで 「足りませんな」 衆人はこれを聞くと、愕然としない者はなかった。坐に就き、徐ろに鞭を挙げて言うには 「願わくば至尊の威徳を四海に加えられ、九州を総括し、帝業を成した上で安車・輭輪（軟輪）にて私を徴されれば、始めて顕彰された事になりましょう」 孫権は掌を撫でて歓笑した。

　後に劉備が京城に詣って孫権に通見し、荊州を都督する事を求めた時、ただ魯粛だけが孫権にこれを借して共に曹操を拒ぐ事を勧めた[4]。曹操は孫権が劉備の事業として土地を以てしたと聞くと、書を作っている最中だったが、筆を地に落とした。

　荊南四郡の経略を終えた頃です。先主伝では、劉備の威勢を漸く畏れるようになった孫権が通婚を理由に呼び付けた事になっていて、周瑜伝では周瑜が劉備の軟禁を進言したと記されています。この時の劉備の上京目的は荊南経略の契約達成の報告と、次の契約＝荊北の攻略指令を求めたんじゃないでしょうか。因みにこの時の措置で、劉備は程普に代って南郡太守を代行します。
　魯粛にとって、現在の発言権は劉備を引き入れた計画が当ったからこそです。ここで劉備を手放せば、魯粛の発言で動かせる兵力が不在となり、魯粛はただのブレーンの一人になってしまいます。もう少し、俺の計画を実現する為に使わせてくれ。そんな呟きが聞こえそうです。結果として魯粛の見積もりが甘かった事になります。劉備には職場放棄癖があるんですよね…。

　周瑜は病むと、上疏した 「現在の天下はまさに役務の事（軍事）が多く、これが私の心を夙夜となく憂えさせております。願わくば至尊におかれては未だ然らざる裡に先んじて慮り、然る後に康楽せん事を。今、既に曹操とは敵となり、劉備は近く公安に在って辺境を密邇（密接）にし、百姓は未だ附かず、良将に鎮撫させるのが宜しいでしょう。魯粛の智略は任務に充分ですので、私に代えられん事を。（そうすれば）私は隕踣しても懐（おも）いを尽した事になります」[5]
即ち魯粛を奮武校尉に拝し、周瑜に代えて兵を領（す）べさせた。周瑜の手勢の四千余人、奉邑の四県も皆な属した。程普に命じて南郡太守を領（か）ねさせた。魯粛は初め江陵に駐まり、後に下って陸口（湖北省咸寧市嘉魚）に屯し、威恩は大いに行なわれ、手勢は万余人に増され、漢昌太守・偏将軍に拝された。（建安）十九年（214）、孫権が皖城を破るのに従い、横江将軍に転じた。

　漢昌郡は周瑜から引き継いだ采邑がそのまま郡とされた、魯粛の手勢を養うための魯粛の為の郡です。
　それにしても、周瑜の遺言なんだから周瑜伝に載せろよ、とは思います。しかも裴松之までご丁寧に遺言.ver.2までこっちに載せているし。

　これより先、益州牧劉璋の綱維は頽弛しており、周瑜・甘寧は揃って孫権に蜀を取る事を勧めていた。孫権は劉備に諮ったが、劉備は内心で自ら規画しようとしており、偽って報答するには 「私と劉璋とが宗室として託すのは、英霊に憑いて漢朝を匡さんと冀（こいねが）う事であります。今、劉璋は（将軍の）の左右に罪を得、私は独り竦懼して敢えて上聞する事もできず、�ｪ貸が加えられる事を願うばかりです。もし請願が獲られなければ、私は放髪して山林に帰しましょうぞ」

　でましたよ。職場放棄で脅迫してきました。同盟相手なら自発的に解散されても経営方針を枉げるほどのダメージは生じませんが、かなりの規模の下請けが或る日突然に社員ごとトンズラしたら、そりゃあ大ダメージです。この際、妹婿云々というのは問題にならないでしょうね。

後に劉備は西のかた劉璋を図り、関羽を留めて守った。孫権 「猾虜めが、挾詐しおったな！」。関羽が魯粛と界を隣接させると、しばしば狐疑を生じ、疆埸（辺境）は紛擾錯綜したが、魯粛は常に歓好（好誼）によって鎮撫した。劉備が益州を定めた後、孫権は長沙・零陵・桂陽を求めたが、劉備は承旨せず、孫権は呂蒙を遣って軍兵を率いて進み取らせた。劉備は聞くと自ら公安（湖北省荊州市）に還り、関羽を遣って三郡を争わせた。魯粛は益陽（湖南省益陽市区）に駐まり、関羽と相い拒いだ。魯粛は関羽を邀（むか）えて相い見（まみ）え、各々兵馬を百歩の上（ほとり）に駐め、ただ将軍が単刀にて倶に会合するよう請（まね）いた。
魯粛はこうして関羽を責数するには、「国家が区々たる本土から土地を卿の家に借したのは、卿の家の軍が敗れて遠来し、資と為すものが無かったからなのだ。今、已に益州を得たのに、奉還の意図が無く、ただ三郡を求めただけで、又た命令に従わないとは」 語がいまだ究竟（終了）せぬうちに、坐の一人が 「土地とはただ徳に帰すだけだ。どうして所有が常（さだ）まっていようか！」 魯粛は声を��（はげま）してこれを叱呵し、言辞と顔色は甚だ切（きび）しかった。関羽は刀を操（たぐ）って起って謂うには 「これはもとより国家の事で、この人が何を関知しよう！」 目配せして去らせた[6]。

　本来の関羽なら一喝している筈なのに、なぜ目配せで下がらせたんでしょう？ バカが余計な事を口走って狼狽した為ではないでしょうか。「何常之有！」 とは、本来の所有権が孫権にあると認めてしまったものですから。思慮が浅いと評判の関羽さんでも、これで会談が確実に不利になったと自覚した事でしょう。
　ところでこの当時、劉備は公安に、孫権は陸口に出張っていました。孫権が全権として魯粛を送り出したのは理解できます。劉備との契約の責任者ですから。しかし何故、魯粛は交渉相手に劉備ではなく関羽を選び、関羽も劉備に伺問しなかったんでしょう？ 魯粛にしても、呂蒙が増援に来ているんだから、関羽は呂蒙に任せて劉備と交渉すればいいのでは？

劉備はかくて湘水を界（さかい）として割き、こうして軍事を罷めた。

　ここまで、魯粛の事績は二点に絞られます。孫権に漢朝との訣別を勧め、劉備の徹底活用を実行した事です。注[6]の『呉書』で魯粛も云っていますが、魯粛が交渉した当初の劉備と孫権の実勢力を比較すれば“同盟”という関係が成立しないのは明らかで、魯粛の意図を極言すれば、「劉備を対曹操の防波堤として徹底的に利用しちゃいなＹＯ！ 養兵の所領として半州くらいはくれちゃいなＹＯ！」 といった処でしょう。魯粛の行跡を追っていると蒯通とダブる錯覚すら覚えます。劉備にとってはプロデューサーと呼んでもいいかもです。
　孫呉にとっての劉備は極めて独立性の高い傭兵に過ぎません。夏口に到達した時点での兵力が、先主伝の通りに万余だったとしても、その兵力を養う資は無く、同盟と呼べるような関係は孫権との間に成立しません。諸葛亮が孫権と交渉したのは劉備の兵に食い扶持を与える事で、赤壁の褒賞は傭兵契約の更新と、荊南経略という実務の提供でしょう。随所で云っていますが、孫呉では私兵を国軍扱いする代償として、采邑もしくは太守・令長として現地の実効支配を承認しています。劉備の荊南経営もその範疇を超えるものではなく、「荊南を経略し終えるまでは支配権を行使していいよ」 というものです。孫呉の支配権が確立すれば臨時執政官の権威が解消するのは、全�jの東安郡が好例です。魯粛が実際に長阪でどのように劉備と交渉し、その後もどのように折衝したかは判りませんが、少なくとも孫呉としては、荊南は劉備が荊南経略を進めている期間限定の采邑だったと思われます。
　魯粛最大の誤算は、劉備が諸葛亮を得て傭兵団長から群雄へのジョブチェンジを模索していた事でしょう。その割に関羽に対するアフターケアは杜撰そのもので、本気で 「あとはヨロシク」 で引き継ぎを済ませたんじゃないかって気がします。

　魯粛は齢四十六で、建安二十二（217）年に卒した。孫権は哀哭を挙げ、又たその葬儀に臨んだ。諸葛亮も亦た哀悼の意を発した[7]。孫権は尊号を称す際、壇に臨んで公卿を顧みて謂うには 「昔、魯子敬はこの道を嘗（さししめ）した。事勢に明らかだったと謂って良かろう」

　魯粛の祥月は孫呉政権にとって非常に重要な意味を持つ…可能性があります。何せこの歳、孫権は曹操に再び臣従しているのですから。魯粛が死んで「やれやれ」と政策変更したのか、これ以上は魯粛に任せておけない、と揚州と荊州の分離も覚悟で旧路線に回帰し、魯粛が憂死したのか。後者だといくら何でも不穏すぎで、後世に欠片も情報が伝わらないのも不自然なので、前者かなーと思います。ただ、魯粛から呂蒙への引継ぎが無いんですよねぇ。残念な事に、魯粛の祥月は不明です。
　そして登極した際の孫権のセリフからは苦笑が聞こえてきそうです。漢室との決別を勧め、曹操との開戦を強引に進め、劉備の制御を誤って長江王国の建設を頓挫させ、と、思えば魯粛の口車に振り回された孫権の9年間でした。こんな筈じゃなかったんだけどなぁ、とか思ってたんでしょう。

　魯粛の遺腹の子の魯淑が壮齢（二十歳）になると、濡須督張承が謂うには、終には（この地位に）到至するだろう、と。永安中（258〜64）、昭武将軍・都亭侯・武昌督となった。建衡中（269〜71）、節を仮され、夏口督に遷った。所在では厳整で、方面を幹事する才があった。

　（鳳凰二年）七月、弋陽を囲んだが、晋の征虜将軍王渾に撃破された。 (『晋書』)

鳳皇三年（274）に卒した。子の魯睦が襲爵し、兵馬を領した。