黄初元年十一月癸酉、以河内之山陽邑萬戸奉漢帝為山陽公、行漢正朔、以天子之禮郊祭、上書不稱臣、京都有事于太廟、致胙；封公之四子為列侯。追尊皇祖太王曰太皇帝、考武王曰武皇帝、尊王太后曰皇太后。賜男子爵人一級、為父後及孝悌力田人二級。以漢諸侯王為崇德侯、列侯為關中侯。以潁陰之繁陽亭為繁昌縣。封爵增位各有差。改相國為司徒、御史大夫為司空、奉常為太常、郎中令為光祿勳、大理為廷尉、大農為大司農。郡國縣邑、多所改易。更授匈奴南單于呼廚泉魏璽綬、賜青蓋車・乘輿・寶劍・玉玦。十二月、初營洛陽宮、戊午幸洛陽。
是歳、長水校尉戴陵諫不宜數行弋獵、帝大怒；陵減死罪一等。
二年春正月、郊祀天地・明堂。甲戌、校獵至原陵、遣使者以太牢祠漢世祖。乙亥、朝日于東郊。初令郡國口滿十萬者、歳察孝廉一人；其有秀異、無拘戸口。辛巳、分三公戸邑、封子弟各一人為列侯。壬午、復潁川郡一年田租。改許縣為許昌縣。以魏郡東部為陽平郡、西部為廣平郡。
※1 原陵は光武帝の陵墓。河南省孟津県白合郷に位置する。
※2 校猟は獣を放った柵内で行なう狩り。本来は軍事演習の一種でしたが、当時はインドア生活メインの皇帝の憂さ晴らしと化していました。儀礼上でも認められていた事が皇帝には格好の口実となっていました。
詔曰：「昔仲尼資大聖之才、懷帝王之器、當衰周之末、無受命之運、在魯・衞之朝、教化乎洙・泗之上、悽悽焉、遑遑焉、欲屈己以存道、貶身以救世。于時王公終莫能用之、乃退考五代之禮、脩素王之事、因魯史而制春秋、就太師而正雅頌、俾千載之後、莫不宗其文以述作、仰其聖以成謀咨！可謂命世之大聖、億載之師表者也。遭天下大亂、百祀墮壞、舊居之廟、毀而不脩、褒成之後、絶而莫繼、闕里不聞講頌之聲、四時不覩蒸嘗之位、斯豈所謂崇禮報功、盛德百世必祀者哉！其以議郎孔羨為宗聖侯、邑百戸、奉孔子祀。」令魯郡脩起舊廟、置百戸吏卒以守衞之、又於其外廣為室屋以居學者。
※ 蒸は冬の祭り。嘗は秋の祭り。位は祭壇。
春三月、加遼東太守公孫恭為車騎將軍。初復五銖錢。夏四月、以車騎將軍曹仁為大將軍。五月、鄭甘復叛、遣曹仁討斬之。六月庚子、初祀五嶽四瀆、咸秩羣祀。丁卯、夫人甄氏卒。戊辰晦、日有食之、有司奏免太尉、詔曰：「災異之作、以譴元首、而歸過股肱、豈禹・湯罪己之義乎？其令百官各虔厥職、後有天地之眚、勿復劾三公。」
※ 五嶽は泰山・華山・衡山・恒山・嵩山。四瀆は黄河・長江・淮河・済水。
秋八月、孫權遣使奉章、并遣于禁等還。丁巳、使太常邢貞持節拜權為大將軍、封呉王、加九錫。冬十月、授楊彪光祿大夫。以穀貴、罷五銖錢。己卯、以大將軍曹仁為大司馬。十二月、行東巡。是歳築陵雲臺。
孫権からの于禁らの送還は、劉備の東征に対する援軍要請のオマケです。それに対する曹丕の返答が進位進爵。少なくとも大々的に兵を動かした様子はありません。せいぜい許昌に行幸しただけです。続きは[注28]にて。
冬十月、楊彪に光禄大夫を授けた[26]。穀価が騰貴したので五銖銭を罷めた[27]。己卯、大将軍曹仁を大司馬とした。十二月、東方を巡行した。この歳、陵雲台を築いた。五銖銭の件は、漢末に破綻した流通経済が未だに回復できていない証明です。直接のきっかけは董卓の銅銭悪鋳かも知れませんが、アレは最後の一押しで、曹操の時代を通じて貨幣経済の回復は棚上げされてきました。貨幣を易えて物価が高騰したのは、新貨幣が粗悪か、流通量が少ないかで、曹丕の政策の失敗です。もはや董卓を非難できる期間は過ぎています。
三年春正月丙寅朔、日有蝕之。庚午、行幸許昌宮。詔曰：「今之計・孝、古之貢士也；十室之邑、必有忠信、若限年然後取士、是呂尚・周晉不顯於前世也。其令郡國所選、勿拘老幼；儒通經術、吏達文法、到皆試用。有司糾故不以實者。」
二月、鄯善・龜茲・于闐王各遣使奉獻、詔曰：「西戎即敍、氐・羌來王、詩・書美之。頃者西域外夷並款塞内附、其遣使者撫勞之。」是後西域遂通、置戊己校尉。
※ 周晋は周の霊王の太子/姫晋。世に賢者として知られ、早逝したとも、父王を直諫した為に庶人に落とされたとも伝えられる。姫姓王氏の始祖とされた。ここで例示された理由は不明。
二月、鄯善・亀茲・于闐王が各々遣使して奉献した。詔 「西戎が叙爵に即き、氐・羌が王都に来るのは『詩』『書』でも賛美している。先頃は西域の外夷が揃って塞門を款（たた）いて内附した[29]。使者を遣ってこれを撫労せよ」 これより西域が通じ、戊己校尉を置いた。 三月乙丑、立齊公叡為平原王、帝弟鄢陵公彰等十一人皆為王。初制封王之庶子為郷公、嗣王之庶子為亭侯、公之庶子為亭伯。甲戌、立皇子霖為河東王。甲午、行幸襄邑。
夏四月戊申、立鄄城侯植為鄄城王。癸亥、行還許昌宮。五月、以荊・揚・江表八郡為荊州、孫權領牧故也；荊州江北諸郡為郢州。
閏月、孫權破劉備于夷陵。初、帝聞備兵東下、與權交戰、樹柵連營七百餘里、謂羣臣曰：「備不曉兵、豈有七百里營可以拒敵者乎！『苞原隰險阻而為軍者為敵所禽』、此兵忌也。孫權上事今至矣。」後七日、破備書到。
秋七月、冀州大蝗、民饑、使尚書杜畿持節開倉廩以振之。八月、蜀大將黄權率衆降。
孫権の領荊州牧の件は、名分を必要以上に気にする曹丕らしい折衷策です。曹丕の中華皇帝としての体面・面子を保ったまま、孫権の支配圏も魏の荊州牧としての立場も損っていません。よほど孫権の臣従を手放したくなかったんでしょう。それにしても、兵も出さずに曹丕は自分の見通しを自慢している場合じゃなかろうに。再度云いますが、冊封国の兵難に応えるのは中華皇帝の義務です。これを履行したのが武帝で、そうしなかったのが光武帝。そういえば曹丕はやたらと光武帝を譬えに使いますが、こんな点まで倣わなくてもよかろうが…。実際、曹丕が援軍を出さなかった理由は各書でも触れられていないので想像する他ありませんが 「どうせ孫権を助けても何も得られないし、いずれ背く相手に無駄な出費はしたくない」 と、こんな時だけリアリスト路線でしょうか。まぁ、前の歳に孫権が襄陽を火事場泥棒した一件も尾を引いているんでしょう。
実は八郡荊州の件では魏に実損はありません。この頃はまだ皇帝の体面に拘りすぎっていう仮面を被りつつしみったれた損益計算で動く事ができたんだー。
九月甲午、詔曰：「夫婦人與政、亂之本也。自今以後、羣臣不得奏事太后、后族之家不得當輔政之任、又不得橫受茅土之爵；以此詔傳後世、若有背違、天下共誅之。」庚子、立皇后郭氏。賜天下男子爵人二級；鰥寡篤癃及貧不能自存者賜穀。
冬十月甲子、表首陽山東為壽陵、作終制曰：「禮、國君即位為椑、存不忘亡也。昔堯葬穀林、通樹之、禹葬會稽、農不易畝、故葬於山林、則合乎山林。封樹之制、非上古也、吾無取焉。壽陵因山為體、無為封樹、無立寢殿、造園邑、通神道。夫葬也者、藏也、欲人之不得見也。骨無痛痒之知、冢非棲神之宅、禮不墓祭、欲存亡之不黷也、為棺槨足以朽骨、衣衾足以朽肉而已。故吾營此丘墟不食之地、欲使易代之後不知其處。無施葦炭、無藏金銀銅鐵、一以瓦器、合古塗車・芻靈之義。棺但漆際會三過、飯含無以珠玉、無施珠襦玉匣、諸愚俗所為也。季孫以璵璠斂、孔子歴級而救之、譬之暴骸中原。宋公厚葬、君子謂華元・樂莒不臣、以為棄君於惡。漢文帝之不發、霸陵無求也；光武之掘、原陵封樹也。霸陵之完、功在釋之；原陵之掘、罪在明帝。是釋之忠以利君、明帝愛以害親也。忠臣孝子、宜思仲尼・丘明・釋之之言、鑒華元・樂莒・明帝之戒、存於所以安君定親、使魂靈萬載無危、斯則賢聖之忠孝矣。自古及今、未有不亡之國、亦無不掘之墓也。喪亂以來、漢氏諸陵無不發掘、至乃燒取玉匣金縷、骸骨并盡、是焚如之刑、豈不重痛哉！禍由乎厚葬封樹。『桑・霍為我戒』、不亦明乎？其皇后及貴人以下、不隨王之國者、有終沒皆葬澗西、前又以表其處矣。蓋舜葬蒼梧、二妃不從、延陵葬子、遠在嬴・博、魂而有靈、無不之也、一澗之閒、不足為遠。若違今詔、妄有所變改造施、吾為戮尸地下、戮而重戮、死而重死。臣子為蔑死君父、不忠不孝、使死者有知、將不福汝。其以此詔藏之宗廟、副在尚書・祕書・三府。」
「通樹之」 を 「通じて植林した」 と訳しましたが、正直よく解りません。筑摩版での 「林に通じて墓の木を植えた」 とあるのも日本語としてどうなの？墓林に通じる道に植林したとか。いずれにせよ、人為を加えないのがベストという論旨からはズレてるようですが、墓に植林するのは駄目だけどその周囲ならオッケーという古典ルールでもあるんでしょうか。
封土植樹の制は上古のものではなく、吾れの採るところではない。寿陵は山に因って本体とし、封土植樹をしてはならない。寝殿を立て、園邑を造り、神道を通してはならない。そも葬とは藏であり、人に見られぬ事を望むものである。骨には痛痒の知覚は無く、冢は棲神の宅ではない。『礼』で墓祭をしないのは、存と亡とが黷（けが）さない事を願うからで、棺槨は朽骨を納めるに足り、衣衾は朽肉に著せるに足るものでよいのだ。だから吾れはこの丘墟に不食の地を営み、易代の後に所在を知らせない事を思っている。（乾燥材の）葦炭を施さず、金銀銅鉄を埋蔵せず、一切を瓦器とし、古制の塗車（泥車）・芻霊（茅人形）の義に合致させよ。棺はただ漆を縁際の三ヶ所に塗り、飯含は珠玉を用いず、珠襦・玉匣を施してはならない。諸々の事は愚俗のする事だ。※ 張釈之は袁盎の薦挙で郎官から抜擢された文帝の名臣。どれほど厳重な陵墓でも副葬品次第で必ず盗掘される事を指摘した。律法の運用が公正厳粛で、太子と梁王が下車せずに司馬門を通過しようとした事を弾劾して文帝に認められ、後に廷尉に進み、文帝の判断より律法の運用を優先させて重んじられた。景帝が即位すると過去の経緯から淮南国丞相に出された。
是月、孫權復叛。復郢州為荊州。帝自許昌南征、諸軍兵並進、權臨江拒守。十一月辛丑、行幸宛。庚申晦、日有食之。是歳、穿靈芝池。
四年春正月、詔曰：「喪亂以來、兵革未戢、天下之人、互相殘殺。今海内初定、敢有私復讎者皆族之。」築南巡臺于宛。三月丙申、行自宛還洛陽宮。癸卯、月犯心中央大星。丁未、大司馬曹仁薨。是月大疫。
曹魏では既に軍管区の再編が行なわれたので、曹丕はまず南面総司令部のある宛に入りました。対南の宛と対西の長安が魏の二大総司令部。前線拠点としては合肥が江陵より遠い分、やや独立性が強いように見えますが、基本的に宛が両者をフォローしています。恐らく南巡台を建設した事も、宛を今後に亘って南征の大拠点にしちゃうゾ☆ という曹丕の意気込みに他なりません。語尾をカタカナ☆にしておいて意気込みも何もあったもんじゃありませんがね。
南征の結果に全く触れられていません。江陵・濡須・牛渚に同時進攻した大作戦で、洞浦で呉軍を大破したものの、江陵・濡須では対峙が続いています。最終的に魏軍は三方面とも撤退して得たものは何もなく、むしろ朱然の名が高まりました。
夏五月、有鵜鶘鳥集靈芝池、詔曰：「此詩人所謂汚澤也。曹詩『刺恭公遠君子而近小人』、今豈有賢智之士處於下位乎？否則斯鳥何為而至？其博舉天下儁德茂才・獨行君子、以答曹人之刺。」
六月甲戌、任城王彰薨於京都。甲申、太尉賈詡薨。太白晝見。是月大雨、伊・洛溢流、殺人民、壞廬宅。秋八月丁卯、以廷尉鍾繇為太尉。辛未、校獵于滎陽、遂東巡。論征孫權功、諸將已下進爵增戸各有差。九月甲辰、行幸許昌宮。
五年春正月、初令謀反大逆乃得相告、其餘皆勿聽治；敢妄相告、以其罪罪之。三月、行自許昌還洛陽宮。夏四月、立太學、制五經課試之法、置春秋穀梁博士。五月、有司以公卿朝朔望日、因奏疑事、聽斷大政、論辨得失。秋七月、行東巡、幸許昌宮。八月、為水軍、親御龍舟、循蔡・潁、浮淮、幸壽春。揚州界將吏士民、犯五歳刑已下、皆原除之。九月、遂至廣陵、赦青・徐二州、改易諸將守。冬十月乙卯、太白晝見。行還許昌宮。十一月庚寅、以冀州饑、遣使者開倉廩振之。戊申晦、日有食之。
この時点で青徐に対する特令を出す理由は何でしょう。南征が準備不足で青徐を戦時調達の対象とした代償に飴を与えたのか、さもなくば長らく治外法権だった青州と、曹操にとって憎き親の仇の徐州を漸く赦して内地同様の扱いとしたものか。
そういえば広陵が話題に上るのは三国時代では珍しい事態です。龍舟なんぞを仕立てたから淮河を使う必要が生じて広陵経由になったというのは結果論ですが、そもそもなぜ締まり屋の曹丕がわざわざ龍舟を用意したんでしょう。作ったから見せびらかしたかったというなら可愛気がありますが、そんなキャラではありません。盛大な儀仗での示威行動というのが正解でしょう。その対象は孫呉半分・南徐半分でしょうか。
思い返せば曹魏関連で広陵の名は滅多に出てきません。自分の記憶力にも問題ありますが、陳登が太守になって以降の広陵の動向が不明瞭です。曹操が積極的にケアしてきた様子もないので、成り行きで曹操の支配を何となく受けていたところへ、孫呉からの工作があってグラつき始め、そこで曹丕の江南親征を兼ねた龍舟による示威に至ったのではないかと。この南征は孫権伝を見た限りだと 「往った、見た、還った」 なので軍事目的は成果無しですが、交戦しての敗北でもないので、大衆は 「龍舟スゲー」 と南徐に対する目的は一応クリアしたのではないかと思われます。
十二月、詔曰：「先王制禮、所以昭孝事祖、大則郊社、其次宗廟、三辰五行、名山大川、非此族也、不在祀典。叔世衰亂、崇信巫史、至乃宮殿之内、戸牖之閒、無不沃酹、甚矣其惑也。自今、其敢設非祀之祭、巫祝之言、皆以執左道論、著于令典。」是歳穿天淵池。
六年春二月、遣使者循行許昌以東盡沛郡、問民所疾苦、貧者振貸之。三月、行幸召陵、通討虜渠。乙巳、還許昌宮。并州刺史梁習討鮮卑軻比能、大破之。辛未、帝為舟師東征。五月戊申、幸譙。壬戌、熒惑入太微。
この件については梁習伝・鮮卑伝ともに記載がありません。
辛未、帝が舟師で東征した。五月戊申、譙に行幸した。壬戌、熒惑星が太微垣（うみへび座西半部）に入った。 六月、利成郡兵蔡方等以郡反、殺太守徐質。遣屯騎校尉任福・歩兵校尉段昭與青州刺史討平之；其見脅略及亡命者、皆赦其罪。
秋七月、立皇子鑒為東武陽王。八月、帝遂以舟師自譙循渦入淮、從陸道幸徐。九月、築東巡臺。冬十月、行幸廣陵故城、臨江觀兵、戎卒十餘萬、旌旗數百里。是歳大寒、水道冰、舟不得入江、乃引還。十一月、東武陽王鑒薨。十二月、行自譙過梁、遣使以太牢祀故漢太尉橋玄。
前年のリベンジとしての南征の最中に火薬庫の一つの東海地方に引火しました。利成郡は利城郡ともいって、臧霸絡みで建てられた東海三郡の1つで、トリオの昌慮郡は既に昌豨討平の後処理として建安十一年（206）に廃止されています。この乱の討つ側には徐州刺史呂虔が参加し、討たれる側では唐咨が首領に推されています。一帯は曹操の虐殺行とも無縁ではなく、曹魏は結局、東海三郡を統制しきれていないという事になります。正直、曹丕は広陵への示威やら南征などに血道をあげている場合ではありません。
そういえば臧霸と孫観はどちらも親子で青州刺史を経験していますが、この時の青州刺史が臧艾か孫毓だったらという興味が湧きます。
呉志呉主伝ではガン無視の征行でした。それにしても、示威が主目的だったとしても今回のザマはお粗末に過ぎました。暢気に馬上で詩を詠んでいる場合じゃありません。蔣済伝によれば、曹丕は船団を放棄してさっさと許昌に還っています。諫言が聴かれなかった挙句に後始末まで押し付けられた蔣済の心中はどれ程か。苦楽を与にするとは謂いますが、「楽はオレのもの、苦はお前らのもの」 を実践してしまっている点が君主として致命的で、率先して許昌に還ってしまった事で 「苦楽を与にする気ゼロで～す」って宣言してしまいました。そりゃあ名族層の支持は得られませんよ。
ところで広陵故城とありますが、曹魏の広陵郡治は淮陰（淮安市区）に置かれたので、嘗ての広陵城（揚州市区）が広陵故城です。
曹丕が橋玄を祀った記事はこれで二度目です。対して曹操を祀ったのは…。
七年春正月、將幸許昌、許昌城南門無故自崩、帝心惡之、遂不入。壬子、行還洛陽宮。三月、築九華臺。夏五月丙辰、帝疾篤、召中軍大將軍曹真・鎮軍大將軍陳羣・征東大將軍曹休・撫軍大將軍司馬宣王、並受遺詔輔嗣主。遣後宮淑媛・昭儀已下歸其家。丁巳、帝崩于嘉福殿、時年四十。六月戊寅、葬首陽陵。自殯及葬、皆以終制從事。
初、帝好文學、以著述為務、自所勒成垂百篇。又使諸儒撰集經傳、隨類相從、凡千餘篇、號曰皇覽。
結果として、即位後の曹丕は行幸と外征に終始しました。校猟によるプチ遠出を加えると、新都として造営した洛陽に留まっている時間がとても少ない。曹操は忙しい中でもしょっちゅう鄴に還っていたのに、曹丕にはそうした“気遣い”がありません。
アバウトに換算すると、治世67ヶ月中、洛陽に帰還したのが4回で計25ヶ月。初期に一年居座っていた以外は半年も腰を落ち着けた事がありませんでした。特に黄初五年七月に南征に発って次に帰洛するのが七年一月。そしてそのまま病死です。許昌に居たのが22ヶ月、南征の征途に在ったのが16ヶ月。龍舟南征の目的が国内鎮撫だとしたら、12ヶ月をそれに割いていた事になります。さすがに治世の初期に 「潁川は国家の翼成」 と言うだけあって、許昌のウェイトが高いです。或いは洛陽に落ち着きたくない何かがあったのか、忙しごっこが好きなのか、単なる放浪癖なのかは不明です。行動圏も華北平原、それも黄河の南限定と随分と偏っています。広陵には二度進出しているのに東海地方は他人に任せっきりです。
そういえば曹操の墓参りにも殆ど出かけていませんね。中華皇帝だと嘯きつつ呉蜀の争いに介入もせず傍観したり、禅譲のときにやれ堯だ舜だ徳だと騒いだ割に墓参を疎かにする。どうも曹丕の描く国家像・君主像が見えてきませんでした。曹丕がいやぁなヤツという眼鏡で曇っているのかなぁ。
これは五月の件のアフターケアを兼ねた河西の再掌握の布石です。河西は中原が乱れたら真っ先に独自行動を採る地域の一つで、しかも城ごと郡ごとの独立志向が強い地域です。夏侯淵・張郃コンビが成果を挙げたものの、直後の漢中の失陥は河西を動揺させるのに充分だった事でしょう。殊に魏は州郡の駐兵力を限定して方面本部に大兵を集中配備する路線ですから、今回曹真がタガを締めたとはいえ常駐兵力が増強されたとも思えず、河西は依然として不確定要素の塊です。曹丕にしても先見の明を無駄に誇ってハシャイでいる場合ではありません。
結局、孫権の支援要請に対する返答はこれだけです。孫権が明言しようがしまいが、藩属国に援軍を出すのが中華皇帝たる者の義務です。せめてフリだけでも示そうよ。このとき劉曄の南侵策を聴かなかったのは正解で、それをやったら曹丕は自ら中華皇帝の資格を放棄した事になります。曹丕が魏王だったら劉曄は正解ですが、皇帝に対する進言としては不忠の臣と謗られても已む無しです。それにしても、面子とか体面を意識するあまり、文意を読みとるというスキルを失ってしまったんでしょうか曹丕は。穿って曲解する事は得意なクセに…。
原文では 「権及領南郡太守」 と諱だけで書かれているので、うっかり孫権の事かと思っていました当初は。孫権と曹丕の会見だなんて『魏書』も創作に走ったなーと感心したもんですが、戦勝して官爵降格だなんて不自然ですし、そもそも黄権の記事に施注されているので権は黄権の事でしょう。印綬等は劉備から授かったものなので、曹魏視点で“仮”となっています。
批判に終始して結論に至っていません。これぞ批判のための批判。というか難癖です。婦人の参政を肯定している訳でもなく、外戚禍を防ぐ私案を陳べるでもない、ただの無責任な批評に過ぎません。孫盛はとにかく誰かを叩きたくて仕方ない人。『魏氏春秋』や『晋楊秋』は要注意。
江陵地方に出征すると疫病で失敗せずにはいられない魏軍ですが、疫病は呉軍からの感染なのか魏軍が発生源なのかは今一つ不明です。江陵の朱然軍では兵の半ばが浮腫を患ったようですが、疫病なのか長期籠城による発病なのか。ところで三月の疫病の大流行って、遠征軍がお持ち帰りしたんじゃ…。
もし～の機会があれば、とか云いつつ決定した南征の布陣についての説明じゃないですか。この詔勅を読んでいると時間軸がびみょーに狂ってきます。鎮軍と撫軍の役割分担が示されているのが今回の収穫です。それにしても 「無理そうなら」 って、事前調査とか検討をせず勢いで南征するつもりですか曹丕さんは。
この手の批判をする人って、大概は逆の事をした場合も叩くんですよね。この場合、明帝の葬送を止めなければ 「託孤の臣なのに炎天下に一天万乗の君を苛酷な道中に遣るとは何たる不出来！！」 とか書いたに決まっている。
―― 鄄城侯曹植為誄曰：「惟黄初七年五月七日、大行皇帝崩、嗚呼哀哉！于時天震地駭、崩山隕霜、陽精薄景、五緯錯行、百姓呼嗟、萬國悲傷、若喪考妣、（恩過慕） 〔思慕過〕唐、擗踊郊野、仰想穹蒼、僉曰何辜、早世殞喪、嗚呼哀哉！悲夫大行、忽焉光滅、永棄萬國、雲往雨絶。承問荒忽、惛懵哽咽、袖鋒抽刃、歎自僵斃、追慕三良、甘心同穴。感惟南風、惟以鬱滯、終於偕沒、指景自誓。考諸先記、尋之哲言、生若浮寄、唯德可論、朝聞夕逝、孔志所存。皇雖一沒、天祿永延、何以述德？表之素旃。何以詠功？宣之管絃。筑摩訳に目を通して眩暈と変な汗に襲われました(笑) 曹植伝とこの誄を併せて読むと、曹丕と曹植がＳＭ関係を補完し合っていたという、どこぞで読んだ小説も穿ち過ぎてはいなかったのかもと思い直してしまいます。
この時の疫病は恐らく王粲をはじめとする建安七子の多くを殺した建安二十二年のものでしょう。時人とか士人とかは要するに自分の周囲の同好の士であって万民の苦難を憂えた訳ではありません。『典論』編纂の理由は人生の無常を覚ったとかの文学的な理由ではなく、名を遺す為というのが曹丕らしい所です。
常に漢文帝の寬仁玄黙・以徳化民を賢聖の風があると慕っていた。聡明さと国務に対する識見では賈誼の方が優秀だと云う者がいると、ムキになって反論し、批判は管仲・晏嬰にも飛び火した。ただし文帝が伯父の薄昭を処刑し、鄧通を鍾愛し、節倹が行き過ぎだった点はこっそり認めた。孫権が叛いた後も征伐を好まない事を宣言した。文帝は中道を執り、帝王の儀を体現した。 (『魏書』)評曰：文帝天資文藻、下筆成章、博聞彊識、才芸兼該；若加之曠大之度、勵以公平之誠、邁志存道、克廣德心、則古之賢主、何遠之有哉！
以下、しょーもない自慢オンリーなので割愛。何歳で何が出来たとか、弓や剣が上手いとか、天子が自慢する分野ではありません。よほど抑圧されていたものか、それとも結局、俺が俺がの人なのだろうか。
[45] 帝自敍曰：初平之元、董卓殺主鴆后、蕩覆王室。是時四海既困中平之政、兼惡卓之凶逆、家家思亂、人人自危。山東牧守、咸以春秋之義、「衞人討州吁于濮」、言人人皆得討賊。於是大興義兵、名豪大侠、富室強族、飄揚雲會、萬里相赴；兗・豫之師戰于滎陽、河内之甲軍于孟津。卓遂遷大駕、西都長安。而山東大者連郡國、中者嬰城邑、小者聚阡陌、以還相呑滅。會黄巾盛於海・岱、山寇暴於并・冀、乘勝轉攻、席卷而南、郷邑望煙而奔、城郭覩塵而潰、百姓死亡、暴骨如莽。余時年五歳、上以世方擾亂、教余學射、六歳而知射、又教余騎馬、八歳而能騎射矣。以時之多故、毎征、余常從。建安初、上南征荊州、至宛、張繍降。旬日而反、亡兄孝廉子修・從兄安民遇害。時余年十歳、乘馬得脱。夫文武之道、各隨時而用、生于中平之季、長于戎旅之間、是以少好弓馬、于今不衰；逐禽輒十里、馳射常百歩、日多體健、心毎不厭。 建安十年、始定冀州、濊・貊貢良弓、燕・代獻名馬。時歳之暮春、勾芒司節、和風扇物、弓燥手柔、草淺獸肥、與族兄子丹獵于鄴西、終日手獲麞鹿九、雉兔三十。後軍南征次曲蠡、尚書令荀彧奉使犒軍、見余談論之末、彧言：「聞君善左右射、此實難能。」余言：「執事未覩夫項發口縱、俯馬蹄而仰月支也。」彧喜笑曰：「乃爾！」余曰：「埒有常徑、的有常所、雖毎發輒中、非至妙也。若馳平原、赴豐草、要狡獸、截輕禽、使弓不虚彎、所中必洞、斯則妙矣。」時軍祭酒張京在坐、顧彧拊手曰「善」。余又學撃劍、閲師多矣、四方之法各異、唯京師為善。桓・靈之間、有虎賁王越善斯術、稱於京師。河南史阿言昔與越遊、具得其法、余從阿學之精熟。嘗與平虜將軍劉勳・奮威將軍鄧展等共飲、宿聞展善有手臂、曉五兵、又稱其能空手入白刃。余與論劍良久、謂言將軍法非也、余顧嘗好之、又得善術、因求與余對。時酒酣耳熱、方食芉蔗、便以為杖、下殿數交、三中其臂、左右大笑。展意不平、求更為之。余言吾法急屬、難相中面、故齊臂耳。展言願復一交、余知其欲突以取交中也、因偽深進、展果尋前、余卻腳鄛、正截其顙、坐中驚視。余還坐、笑曰：「昔陽慶使淳于意去其故方、更授以祕術、今余亦願鄧將軍捐棄故伎、更受要道也。」一坐盡歡。夫事不可自謂己長、余少曉持複、自謂無對；俗名雙戟為坐鐵室、鑲楯為蔽木戸；後從陳國袁敏學、以單攻複、毎為若神、對家不知所出、先日若逢敏於狹路、直決耳！余於他戲弄之事少所喜、唯彈棊略盡其巧、少為之賦。昔京師先工有馬合郷侯・東方安世・張公子、常恨不得與彼數子者對。上雅好詩書文籍、雖在軍旅、手不釋卷、毎毎定省從容、常言人少好學則思專、長則善忘、長大而能勤學者、唯吾與袁伯業耳。余是以少誦詩・論、及長而備歴五經・四部、史・漢・諸子百家之言、靡不畢覽。 (『典論』)